036:敵の強襲、迎え撃つは量産型
去る者たちが島から出ていき、残された俺たちは埠頭へ立つ。
一体何が待っているのかと見ていれば――空間が歪んでいった。
虚空から何かが飛び出してきて、海面が大きく揺れた。
俺たちの眼前には鋼鉄の要塞が聳え立っていた。
全長にして500メートルを優に超えているであろう船体。
幅は400から430といったところか。
漆黒の船の上には巨大な主砲や副砲が見えていて、まるで大昔の戦艦のようであった。
船首にはU・Mのエンブレムが刻まれていて、味方には安心を与えて敵には恐怖を与える形をしていた。
合計で五つの船が浮上して、俺たちは機体の中から驚きの声を上げていた。
「すげぇ、こんなもんを隠し持ってたのかよ……」
トロイは俺たちの心の声を代弁してくれた。
オープン回線を繋げば、皆が皆、これから始まる戦いに胸を躍らせていて。
俺も量産型のメリウスの中から、笑みを浮かべていた。
今俺が乗っているのは紫電の代わりに渡されたメリウスで。
第五世代型のソルジャーMk-IIと呼ばれる濃い緑色の機体であった。
青い単眼センサーを光らせながら、口元を覆うシルバーのマスクをしていて。
片耳に取り付けられたイヤーマフ型のアンテナが後ろへと伸びている。
中量級のバランスの取れた形をした機体であり、スラスター以外は基本的なソルジャー型と変わらない。
そう、スラスターだけが俺専用にチューンナップされている。
何でも、これに慣れておけば後になって苦労しないと言われたけど……どういう意味なのか。
背中から延びたスラスターが二基に、腰から延びた更に長いスラスターが二基。
足裏の小型のブースターに加えて、膝にもブースターが取り付けられていて。
装備している武装は、対艦プラズマブラスターが一つである。
全長にして18メートルもあるこれは、本来であれば重く長すぎて取り扱いが難しいであろう。
しかし、最新技術によって”無重力フィールド”と呼ばれるものを武器周りに形成することによって武器自体の重さや風の抵抗を限りなくゼロにすることに成功したらしい。
後は、腰に取り付けられたヒートダガーが二本と、胸部装甲に取り付けられた小型ミサイルや肩部から発射するスモークグレネードくらいか。
量産型にしては重すぎる”愛”であり、俺はこれを指示したであろうゴウリキマルさんの事を考えて笑った。
「……元気にしてるかな」
スパナを持ちながら怒っているゴウリキマルさん。
今も俺の為に行動してくれている筈で。
きっとショーコさんも一緒になって無事に過ごしてくれている筈だ。
また会えたのならその時は沢山話がしたい。
別れた後に何があって、俺は何を思ったのか……話すことは沢山ある。
遠くの景色を見ながら、俺は相棒たちの無事を祈って。
そうして、仲間たちが船の中に機体を搬送し終えるまで警護の任務にあたった。
この島の情報は敵には渡っていない筈で、警護をする必要も無いと言っていた。
しかし、俺やヴォルフさんは念の為にとソルジャーで護衛役を務める事をかって出た。
センサーを確認しても敵影は無い。
ヴォルフさんとコンタクトを取りながら、周りを警戒する。
下を見れば、職員である一般スタッフや医療スタッフたちも船に乗り込んでいて。
俺は妙な胸騒ぎを覚えながらも、辺りに目を配っていた。
「……静かすぎる」
「……あぁ鳥がいない。妙だ」
動物とは人間よりも危機察知能力が高いと言われている。
大地震が起こる前に空へと飛び立ったり、建物から逃げ出したり。
動物たちを研究する研究者たちは、動物たちには未来予知に似た特殊能力が備わっていると言っていた。
それは本来ならば人間にも備わっていた機能で、長い年月をかけて退化した人間はその機能を失ったという。
つまり、人間には分からない何かが動物には分かる。
何かが来る、何の確証も無いのにそんな気がした。
俺は何処から来るのかと警戒して――一気に上空へと飛翔した。
ヴォルフさんがどうしたのかと聞いてきた。
俺は少し空の様子を見てくると伝えて。
そうしてぐんぐんと高度を上げながら、俺は雲の合間を抜けて周りを見た。
太陽が眩しく、下に雲があること以外何の変哲も――俺は銃口を構えた。
間髪入れずにブラスターを発射する。
無反動のブラスターが放たれて、青白い閃光が駆けていく。
雲の切れ間へと迫ったそれは――何かに弾かれた。
四散していく弾を見ながら目を細める。
すると、そこの空間だけが妙な違和感があった。
俺はオープン回線で姿を現すように呼び掛けた。
すると、光学迷彩を解いた謎の青い機体が現れた。
横一線に伸びた白く発光するセンサー。
細長い手足と引き締まった胴体から、軽量型であると認識して。
背中に背負った大型のスラスターからして高機動型であることも予想した。
そいつは、両手に二丁の黒光りするライフルを持っていた。
空中に浮遊しながら、謎の機体の主は俺へと声を掛けてくる。
《貴方も奴らの仲間なんですか。僕たちの邪魔をする組織の》
「……何を言っている」
《惚けないでください。理想郷への道を邪魔するのなら――貴方も殺す》
「――ッ!!」
一気にスラスターを噴かせて接近してきた敵。
凄まじい機動力であり、俺は反射的に後方へと機体を動かした。
バラバラとライフルの弾を放ちながら、敵が追ってくる。
弾が機体を掠めていき、俺はレバーを操作して更に加速した。
「第五世代は、融通が利かないなッ!!」
面倒なスイッチや補助レバーの操作に音声による計器の確認。
やる事は多く、第六世代型である紫電が恋しい。
爆発的な推進力ではあるが、装甲は普通のメリウスと変わらないのだ。
あまり無理をさせ過ぎれば、自滅する可能性もある。
ガタガタと揺れるコックピッドの中で。
俺はヴォルフさんに通信を繋いだ。
敵と接触して交戦状態にあると――向こうも慌ただしい。
《此方も敵と交戦中だ。数は不明で、無差別に施設を攻撃している。機体の搬送とスタッフの移送が完了するまで持ちこたえるぞ》
「了解――ッ!?」
弾が数発被弾してしまう。
意識を逸らせば、敵の攻撃を浴びてしまう。
複雑な機体の操縦に加えて、相手は手練れで。
慣れない機体の操作であるものの、何とか粘ってやろうと俺は笑みを浮かべた。
通信を切り、対艦プラズマブラスターを放つ。
雲を切り裂き飛ぶ弾を回避する敵。
しかし、掠めただけでもダメージがあると理解しているようで攻めては来ない。
冷静そうに見えるが……いや、違うな。
確かに腕は立つようだ。
俺の機動についてこれて、精確な射撃を披露している。
機体を操縦しながら、俺は冷静に敵の動きを観察していた。
適度に距離を保ちつつ、俺の動きを予測して弾を撃ちこんで――焦っている?
小さな違和感だ。
攻撃をしている敵の動きから焦りを感じて。
俺が機体を下降させれば、凄まじい勢いで加速してゆく手を塞ぎに掛かってくる。
まるで、下へと向かわせない為に俺を此処に縛り付けているようで――試してみるか。
俺は操縦桿を握りしめて一気に下へと機体を動かす。
すると、案の定敵は俺の動きを読んでブーストした。
短距離ブーストを連続させて――俺は一気にペダルを踏んだ。
全力での踏み込みにブーストを連続させて。
先回りしようとした敵と並走する。
驚いているであろう敵を見ながら、俺は歯を見せて笑う。
そうして、操縦桿から離れそうになる手を動かしてボタンを押した。
すると、ロックオンは完了しており、胸部装甲が開いて小型ミサイルが放たれる。
《くっ――!》
加速を止めて敵が離れていく。
ジグザクに軌跡を描きながら飛行して。
迫りくるミサイルを器用に撃ち落していく。
俺はそれを見ながら、スモークを全て散布した。
姿を隠して息を潜める。
機体のシステムを最小限まで切って、自然落下していく。
薄暗いコックピッドの中で、俺は敵の次の一手を予想して――一気にシステムを復旧させた。
《――ッ!!?》
煙が晴れた先には、下へと加速している敵が見えた。
俺が下へと急に移動した為に、何かに気づいてとでも思ったのだろう。
スモークを散布してシステムを切れば、俺の姿を完全に見失って。
焦った敵は俺の移動予測をして、俺の真下に機体を動かしてしまった。
「迂闊だな。死んでくれ」
俺は何の慈悲も無く弾を連続で放つ。
急な攻撃に対処できる筈もなく。
気づいた時には眼前に弾が迫っているのだ。
一発目は何とか回避したものの、二発目が機体を掠めて赤熱する。
三発目が被弾しようとした時に――何かが横合いから現れた。
俺の弾を弾いたのは、またしても姿の見えない敵で。
さきほどから感じていた殺気は一つではなかったと気づいた。
ジリジリと空間が歪んで現れたのは、重武装のメリウスで。
赤く発光するゴーグルを付けたグレーのメリウスからはただならぬ覇気を感じた。
ゴテゴテとした装甲に、両手につけた鋏のような武装。
空中にはシールドとブラスターが一体となった何かが浮遊していて。
男は片腕を失った味方を庇うように立ちながら、無言で鋏を向けてきた。
すると、鋏の間からバチバチと電流が走って――俺は横へと緊急回避をした。
一瞬遅れて飛んできたのは電気を纏った弾丸で。
俺の記憶が正しければアレは――レールガンかッ!
《……退け》
《サードさん……分かりました。後はお願いします》
片腕を失った敵が退却していく。
後に残ったグレーのメリウスは俺を見つめてきて。
逃がしてはくれない状況に笑みを浮かべながら――俺はブラスターを連続で放った。
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