027:Sの称号を受け取る資格

 マイルス社長との正式な契約を完了させて。

 俺は早速、彼から一仕事頼まれた。

 と言っても、ゴースト・ラインや不死教に関する事ではなく。

 俺自身の”ランク昇級試験”を済ませて来いというものであった。


 マイルス社長が言うには、名付きになっているのに未だにFランクというには可笑しいようで。

 このまま放置していれば、好きなように情報を抜かれてしまうと社長は危惧していた。

 何でも、Fランクに関する情報はほぼ規制が掛けられていないようで。

 最低でもCランクに上がらなければ、今まで達成した依頼や行った場所などが管理システムに自動的に記録されてしまうらしい。

 もしもゴースト・ラインや不死教が本気になって俺たちの捜索を開始したとして。

 Fランクで情報を開示している状態にしておくのはただのバカとまで言われてしまった。


 なので、俺は今すぐにでも昇級試験を受けなければいけないらしい。


 傭兵の管理をする機関が各国には存在して。

 俺が傭兵登録したところで、昇級試験の申請も出来ると言われた。

 俺は自分のライセンスを持って灰色の塔の中に入る。

 そうして、傭兵たちが中でくつろいでいるのを見ながら目深くフードを被って。

 スタスタと歩いてモニターの前まで行った。


 モニターの前に立てば、電源がついて中にいるAIが対応してくれた。

 俺は昇級試験を受けたい旨を伝えてライセンスを読み取り機に差し込んだ。

 すると短い機械音が鳴って、俺の昇級試験を受けるための条件はクリアしていることを伝えてきた。

 受けられるのは――Sまでだった。


 ランクFから一気に一番上のSの昇級試験を受けられる。

 Sランクの人間なんて数えるほどしか存在しない。

 俺は慌ててSランクの昇級を受ける選択を済ませてモニターから離れた。

 幸いにも誰にも気づかれていないようで、俺はホッと胸を撫でおろした。

 その時に腕の端末が鳴って誰かが通信を繋げようとしてきた。

 名前を見れば、傭兵統括システムと書かれていて、俺は慌てて繋いだ。


《おはようございますマサムネ様。昇級試験を受けるにあたり説明する点がございます。今、お時間よろしいでしょうか?》

「あ、うん。いいよ」

《ありがとうございます。それでは説明を――》


 俺はAIからの説明を黙って聞いていた。

 Sランクの昇級試験は極秘で行われるもので。

 Sランクの昇級試験を担当する人間は現在のAランクの傭兵の誰かが行うらしい。

 勝てなくてもいいようで、総合的な技量などを評価する様だ。

 試験の日は三日以内に連絡してくれるようで、必要なら機体の運搬の費用も負担してくれる。

 試験の場所も人選もランダムで、何がどうなるかは運次第。

 悔いの残らないように準備をして望んでくれと言われた。


 俺は説明を聞き終えて彼に礼を言う。

 そうして通信を切ってから、今度は社長にメッセージを送った。

 無事に昇級試験の手続きを完了させた事と、受ける試験がSランクである事を。

 既読はすぐについたが何故か返事は来ない。

 俺は首を捻って考えたが分からず。

 その内返事はくれるだろうと考えて、統括センターを後にした。




 家に帰ってパソコンを広げて検索をする。

 調べているのは傭兵についてで。

 俺の名前などを検索してみれば、雷でヒットしてしまった。

 撃墜数やどんな依頼を受けてきたか。後はどんな機体に乗っているか。

 流石に名前や住所などは書いていないが、これでは情報を持っていけと言わんばかりで。

 俺は早く昇級しないといけないなと思いながら、連絡を待っていた。


「……三日以内だからすぐには来ないと思うけど――来た」


 ピロンと音がして、俺はさっとメッセージを開いた。

 すると、統括センターからの連絡であり、日時と場所が記されている。

 日時は仮想現実世界で明後日の午後一時。戦う場所は、俺が最初に行ったヨーム高原だった。

 使用する武装は何でも良いらしいが、弾などはペイント弾に変えなければいけないらしい。

 ブレードも刃引きしているものを使うようで、模擬戦のような感じの様だ。

 俺は一人で納得してから、今度はゴウリキマルさんに連絡した。


 彼女は今、恐らくは自分のバンカーで紫電のメンテナンスをしてくれている頃だろう。

 掛けても良いか少し迷ったが、意を決して連絡をする。

 すると、二コール目で繋がって――ちょっと驚いた。


《何だぁ》

「ご、ゴウリキマルさん? 声が何時もより低い気が、つ、疲れてます?」

《……あぁ? あぁ、ちょっと酒を飲んでな……それで、どうした?》


 二日酔いにでもなったのかと思いつつ、俺は昇級試験を受けれることになったと伝えた。

 すると彼女は、ランクはどれだと聞いてきて。

 俺は馬鹿正直にSランクであると彼女に伝えた。


《…………は?》

「え、何か変ですか?」

《いやいやいや…………何の冗談だよ》


 彼女は何故か驚いていて。

 俺は何がそんなに変なのかと彼女に質問した。

 すると、彼女が思うに最底辺のFから最高ランクのSまで一気にランクを上げた奴は存在せず。

 何があってそうするように上が判断したのか分からないと彼女は言った。


《……傭兵統括センターも一枚岩じゃない。もしかしたら、あの中にいる職員の中で、お前を危険視している奴らが大勢いるのかもしれねぇ……もしくは、Sランクの先輩方がお前を推薦したのかもな》

「危険視って、何か関係が?」

《良いか? ランクを上げるってことはそいつの情報にも規制がかかる。でもな、傭兵統括センターは傭兵に首輪を掛けれて、そいつの情報も上の人間は自由に閲覧できる……考えてもみろ。もしもあそこにゴースト・ラインの奴らが潜伏していればどうなるか》

「……それは危ないですね」

《……まぁSランクまで上げれば、センターでもトップの人間しか見られなくなるだろうさ。そう考えれば安全だけどな》


 ゴウリキマルさんの説明に納得して。

 俺は大丈夫であるならこのまま昇級試験を受けてもいいと考えた。

 場所を伝えて武装はペイント弾にするように言われたとゴウリキマルさんに伝える。

 すると彼女は「ならあれでいいか」と言葉を零して。

 今から適した武装に切り替えるからと言って通信を切ろうとした。

 俺は何か言おうと思ったが言葉が出ず。

 どうしたのかと聞いてきたゴウリキマルさんに何でもないと伝えて通信を切った。


「……胸騒ぎがするって言ったら、可笑しいよな」


 昇級試験を受けても良い筈なのに妙な胸騒ぎを覚えた。

 行ってはいけないと心が警鐘を鳴らしているようで。

 俺はこの感覚は何なのかと思ってしまった。


 まぁ考えても仕方ない。行くって決めたなら行こう。

 でも、胸騒ぎがしているからゴウリキマルさんには黙って――を用意しておこう。


 俺はルール違反だろうとも思ったが、使わなければ問題ないだろうと思って。

 あるところに連絡をして用意をしてもらおうとした。

 昇級試験は初めてだけど、何もなく終わればいい――そう願っていた。

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