020:失なう者の悲しみ
至近距離に迫った敵のブレードを俺のブレードで弾く。
甲高い音を立てて得物をかち上げてやれば奴の腹が丸見えで。
そのまま勢いを使って奴の腹にもう片方のブレードを突き立てようと――銃口が向いている。
コアではなく頭部を狙ったそれを回避する。
しかし、完全には避けきれず頭部が少し削れて。
センサーが少しだけノイズを起こしながらも得物を放つ。
しかし、奴は俺のセンサーのノイズを分かっていたのか。
僅かながらに得物の軌道がズレて、奴の腹を少し抉る程度になってしまった。
瞬間、俺の危機感が激しく警鐘を鳴らした――ッ!
俺はなりふり構わずスラスターを噴かせて急降下する。
すると、一瞬遅れて奴の逆関節が俺がいた場所を蹴りつけていて。
あの強力なバネを持っている足で蹴られたどうなるかは想像できる。
俺は冷や汗を流しながらも距離を取って――奴が追ってきた。
《――傭兵ランクは最低のF……でありながら、強力な力を持つ貴方は……危険です》
「だからぁ? 殺したいのなら――やってみろやッ!!」
逆噴射して機体を停止させる。
奴はそんな俺へとブレードで切りかかってくる。
俺は奴のブレードを自分のブレードで受けて――力を抜くように刃を受け流す。
《――!!》
動画で見たことがあって試してみたら当たりで。
俺は機体の中ではしゃぎながら、奴の機体を蹴りつけた。
奴の装甲が僅かに歪んで弾き飛ばされた。
俺は追い打ちを掛けようと接敵し――目の前に何かが飛んでくる。
「――アッ!?」
奴の胸部装甲から突出していた筒から何かが飛び出して俺のセンサーに掛かる。
視界を防がれてしまい何も見えない。
そんな中でスラスターの噴射音が聞こえて――俺は左腕で機体をガードした。
瞬間、左腕が何かに当たった音が聞こえた。
スラスターでその場から離れて――左腕が切り飛ばされた。
機体の腕が欠損したことをディスプレイで確認して。
俺は舌を鳴らしながら、センサーについた塗料を紫電の機能で洗浄した。
洗浄液で洗い流せば、ブレードについたオイルを払う敵のメリウスが浮遊している。
《……卑怯とは……言わないでください》
「……言わねぇさ。卑怯な奴ほど、戦場では讃えられるもんだろ」
《……潔い……苦しまないように、殺します》
凍えるような声で殺すと言われて、俺は背筋をゾクゾクさせる。
そんな時に少年たちから救援要請を受けた。
見れば、俺から離れた敵が少年たちと交戦していて――俺は意識を戻す。
眼前に迫った弾丸をブレードで弾いて。
弾丸で意識を逸らしてブレードを振るってきた女の一太刀を半身をズラして躱す。
回し蹴りを喰らわせてやろうとすれば、女は勢いよく後退していって。
ハンドガンの弾をけん制代わりに放ってきた。
ロックオンもしていない弾丸は、俺の装甲を軽く撫でる。
ダメージから言えば、片腕を失っているだけでそこまで問題はない。
まだまだ戦える状態で――女が通信を繋いできた。
《……助けに、行かないのですか……》
「何でだ?」
《……仲間、では?》
「別に、自分の身くらい自分で守れるだろ」
《……ドライ、なんですね……》
通信を繋ぎながらも、俺の周りを飛翔して。
隙を伺いながら、ハンドガンを撃ってくる。
俺はそれを避けながら、女の戦闘スタイルは中々に厄介だと考えた。
近距離で戦えばブレードで襲い掛かって来て。
距離が離れたり攻撃を仕掛けようとすれば、ハンドガンでけん制してくる。
理に適った動きであり、敵ながら見事だと思った。
少年たちの悲鳴を聞いて、俺は無言で通信を切る。
どのみち、この女が逃がしてくれる筈もなく。
助けに行こうにも、こいつを倒さなければい無意味な話で。
片腕も無くしてしまったのなら――使うしかない。
「目標は半分かな――出力全開ッ!!」
青白い閃光と共に、コアが激しく高鳴る。
相手が警戒心を跳ね上げたのを確認しながら――俺は一気にスラスターを噴かせた。
《――ッ!?》
断続的に鳴り響く爆発音。
加速すれば、また更にブーストして方向を変えて。
奴のセンサーを誤作動させる勢いで回りを飛行した。
そうして、奴へと一気に距離を詰めて切りかかる。
《ぐぅ! はや――ッ!!》
まるでかまいたちにでもなった気分だ。
敵の装甲をブレードで削る感触。
音を立てて装甲がバターのように切れて。
飛び散ったオイルを弾き飛ばしていく。
ブーストすれば体が大きく軋んで、悲鳴を上げていた。
だけど、もう慣れた。
更に速く、より機敏に――限界を超えていくッ!!
ブーストして、更にブーストを重ねて。
センサーが時折ノイズを起こしているのを確認しながら。
俺は操縦桿を握りしめながら、歯が砕けるほど奥歯を噛みしめる。
機体内は灼熱であり、前よりも性能が向上したことでもっと機体を思うように動かせるようになった。
ゴウリキマルさんに感謝を――戦う敵をぶっ殺せる力だッ!!
嵐のように相手の周りを飛行して、装甲を削り取っていく。
相手は見る見るうちに装甲を削られて――やがてセンサーの光が消えた。
《――ばけ――の――危険――死――……》
「何言ってんのか聞こえねぇよ」
落下していく敵の頭を空中で切って落とす。
そうしてそれをサブアームに持たせてから、リミッターを付け直した。
残り時間は1分43秒で……まぁまぁだな。
ゆっくりと通信を戻した。
すると、少年兵たちは恐慌状態であった。
泣き叫びながらマシンガンを乱射していて、何名かはロストしている。
必死に戦っているものの、敵たちに嬲り殺しにされているようで。
俺は大きくため息を吐きながら、ぼそりと言葉を発した。
「世話の焼ける奴らだなぁ」
敵の大将らしき奴を堕として。
後は雑魚を蹴散らせば終わりだろうか。
良い経験が出来たと喜びながら、俺はオープン回線に態と繋ぐ。
そうして高笑いを上げながら、勢いよく敵に突っ込んでいった。
見せびらかすように、対象首を腰にぶらせ下れば。
敵は悲鳴を上げながら逃げまどっていた。
背中を見せる臆病者なんて怖くはない。
ブレードで背中のスラスターごとコアを破壊する。
俺は気持ちのいい感触に満足して――恨み言が聞こえてきた。
《お前が。お前が。お前が――ッ! もっと早く来ていれば――ッ!!》
「あぁ、そういう話は後でしてくれ。死にたくないんだろ?」
《くそ、くそ、くそッ!!》
狂犬君は涙声であり、ロストした人間を見れば――あぁなるほどね。
坊主頭のルース君の反応がロストしていた。
確実に死んだであろう彼の事で、狂犬ザックス君は俺に文句があるのだろう。
俺はゴウリキマルさんの為とは言え、面倒な事にまた巻き込まれたと思って。
この後、彼に殴られるのかと思いながらハエを堕とすようにハンドキャノンで敵を撃ち落していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます