019:汚れた空を飛ぶ鳥

 輸送機の中でのんびりとした時間を過ごして。

 かれこれ二時間ばかりのフライトが終わろうとしていた。

 勝手に通信を繋がれて、そろそろ降下する準備をしろと言われて。

 俺は適当に返事をしながら、少年兵たちに通信を繋いだ。


 彼らの顔を見れば、全員もれなく顔色が悪く。

 中には歯をガチガチと鳴らしながら、今にも吐しゃ物をまき散らしそうな奴もいた。

 俺は真顔のまま彼らへと言葉を掛けようとする。

 しかし、気の利いた言葉が思い浮かばない。

 俺は口を開けたまま考えて――これでいいか。


「――人間いつかは死ぬ。死を恐れるな。死んでも良いと思って今日を生きろ」

《何言ってんだテメェッ!! それでも傭兵かッ!!》

《……ザックス……了解しました》


 ザックスと呼ばれた狂犬君は俺に噛みついてきて。

 坊主頭のプロフィールにルースと書かれていた少年が笑顔で指示を受け入れる。

 俺はそれじゃ行くかと機体を動かして――大きく揺れた。


 輸送機のパイロットから、攻撃を受けていると連絡を受けて。

 俺はさっさと出るぞと少年兵たちに指示する。

 その後は各自、思うがままに行動しろと付け加えて。

 俺は通信を繋いだまま、開いたハッチから飛び出し――大空を駆けた。


 スラスターを動かしながら、周囲を索敵する。

 すると、大きな砂原のフィールドに立っている敵の拠点から砲撃されていた。

 対空砲であり、あのメラルドから貰った情報にはそんなものは書かれていなかった。

 俺は輸送機のパイロットに俺たちを降ろしたらすぐに去るように指示する。

 そうして、敵のメリウスもぞろぞろと出てきているを見ながら――俺は勢いよくスラスターを噴かせた。


 通信機越しに、少年兵たちが驚いている声が聞こえる。

 彼らの心配なんかしていない。

 連れて行く気も更々無かったので――さっさと片付けてしまおう。


 ライフルを向けて発砲してくる敵。

 それを避けながら、俺は彼らへと接近していって――コアへと弾丸を放つ。


 ハンドキャノンをすれ違いざまにコアに叩き込まれて。

 敵のメリウスは黒煙を上げながら堕ちていく。

 同時に二機を落としてやれば、彼らは自然と俺へと注意を向けて襲い掛かってくる。

 俺はニヤリと笑いながら、闘争の匂いを感じて喜んだ。


 レジスタンの薄茶色のメリウスが俺を追ってくる。

 俺は態と彼らにも追いつけるようにスラスターの出力を調整して。

 一気に敵の拠点へと降下していく。

 対空砲の狙いが俺に変わって、近くで爆発音が聞こえてくる。

 一つでも操縦を間違えれば落とされる危険の中でスリルを楽しむ。


 風を切り裂き飛んでくる砲撃を避けて――勢いよく発砲する。


 弾丸が敵の砲台に命中して爆ぜる。

 ゴウリキマルさんの指示通り炸裂徹甲弾に変えて正解であった。

 派手に爆散していく敵たちを視界に入れながら、俺は後ろを向いて追いつこうとした一機を狙撃した。

 一発目は避けるだろうと考えて、遅れて二発目を右斜めへと放つ。

 すると、弾丸を避けたと思った敵の面へと弾は吸い込まれる。

 メインカメラをやられた敵はふらふらと機体を揺らしてから、地面へと吸い込まれていくように激突していた。


 敵の動きが変わって、俺の進路を塞ぐように敵が動く――関係ないな。


 俺は進路に入った敵をディスプレイ越しに見ながら、彼の振ったブレードを半身をずらして避ける。

 機体を回転させて、彼の頭部を掴んで射線上にいる敵へと投げつける。

 仲間を撃つことなんて出来ない敵は躊躇って、俺は投げた敵ごと炸裂徹甲弾を乱射してハチの巣にした。

 貫通力は抜群で、その後に爆ぜるのも個人的に気に入った――やっぱり楽しいな!


 俺は子供のように笑いながら、闘争本能に身を任せる。

 襲い掛かる敵たちは俺から距離を取ろうとした。

 逃がす筈もなくブーストして急接近し蹴りをコックピットへと放つ。

 態と隙を作ってやれば俺が硬直したと思って狙いを付けてきて――二機か。


 両側から接近してきた敵がランチャーを放つ。

 俺はその弾を間髪入れず撃ち落す。

 同時に二発の弾を撃ち落せば、ランチャーの弾が空中で爆ぜて白煙が広がる。

 近くに寄って来ていただろう二機は慌てて回避行動を取ろうとしていて――ゼロ距離でコックピットを撃ち抜く。


《――ッ!!》


 オープン回線でも繋いでしまったのか。

 敵の断末魔が聞こえてきて、俺は残る一機もノールックで射撃した。

 適当に狙いを付けてみれは爆発音が聞こえて。

 背後を向いていた敵のスラスターごと見事に撃ち抜いていた。

 俺は自分で自分の腕に感心しながら――少年の声を聞いた。


《隊長ッ!! 我々も加勢しますッ!!》


 坊主頭のルース君が勢いよく現れて。

 バラバラとマシンガンの弾をバラまいていた。

 ロックオン機能を知らないのか、弾は敵の周りを掠めていっている。

 ルース君の後に続いて少年兵たちもやって来て。

 敵の何名かがそちらへと向かっていった。


 ――俺以上のバカだなぁ。


 敵の前で意識を逸らすバカへと照準を合わせる。

 そして、引き金を引けば奴らは碌な回避行動も取れずに撃墜されていた。

 俺はあまり喋りたくないものの、オープン回線にして彼らへと言葉を掛けた。


「……背中を見せた奴から殺す」

《――ッ!?》


 ぼそりと呟いた言葉を聞いて、再び俺へとターゲットが固定された。

 俺は通信を切り替えてルース君たちに指示を出した。


「――命を大事に、自分の身は自分で守れ」

《――っ! りょ、了解!》


 彼らは俺の言葉の意味をようやく理解したのか。

 対空砲の当たらないギリギリの高度まで上昇していく。

 俺はこれで存分に戦えると思って――全力でスラスターを噴かせる。


 爆発音を奏でながら、敵の弾丸を避けていく。

 目についたものへと間髪入れず発砲。

 避けた奴へは蹴りを放ってやって動きを強制的に止める。

 戦場でダンスでも踊るかのように機体を動かして、俺は敵の死体を増やしていった。


 黒煙を上げる大空は、現実のように汚く――笑みが零れる。


 マシンガンの音が聞こえて弾丸が装甲を軽く撫でていく。

 スラスターを噴かせて逃亡者をロックオンして。

 気持ちよく弾丸を発射してスラスターを潰す。

 背後から意表を突こうとしくる敵の反応を感じながら、落ちていく鉄くずの残骸の合間を器用に通過。

 慌てている敵は進行を停止して――格好の的になってくれた。


 両手のハンドキャノンをぶっ放し、また一つ鉄くずを作る。

 空になったシリンダを排出して、敵の弾丸を避けながらサブアームが掴んだシリンダーを嵌め込む。

 そうして、地上からジッと俺を見ているメリウスへと射撃した。


 そいつはあの告死天使がしたような芸当を披露した。


 弾が真っ二つに切り裂かれる。

 着弾した弾が爆ぜて、奴はボーリングの玉のような頭を動かしながら俺を見ていた。

 敵たちの攻撃が止んで、地面で見ていた奴が――大きく跳躍した。


 凄まじいバネであり、俺へと突っ込んできて。

 迷彩柄で逆関節の軽量二脚の斬撃を紙一重で避けながら、俺は浮遊する奴へと笑みを向けた。


《……タイマン……受けてもらいます……》


 女性の声が聞こえた。

 片手にブレード、もう片方にハンドガンを持つメリウス乗りは殺気を滾らせていて。

 俺は猛然と突っ込んでくる奴を見ながら、ハンドキャノンを腰に装着した。

 そうして、近接戦闘の戦闘経験を積むために、俺も腕からブレードを出した。


「胸、貸してもらうぜッ!!」


 互いの武器がかち合って火花が散る。

 ギャリギャリと削りながら、互いの闘争心が混ざり合って――俺は笑みを深めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る