017:過去の傷、歩むべき道
白い鴉のエンブレム――”
相対すれば確実なる死が送られる。
逃れることは叶わず、平等に死の運命が告げられる。
傭兵としてのランクは不明で、乗っているパイロットの情報も無い。
単身で数多くの敵を屠ってきたパイロット――ゴウリキマルさんはそいつとバディーを組んでいた。
五年前に出会ったそいつは東源国を拠点にしていて。
何時も顔を知られるのを恐れて、黒いマスクを付けていたという。
ふらりと彼女の元を訪れて、彼は無茶苦茶な注文を出してきたらしい。
こんな物を作れないと突っぱねることも出来た。
しかし、彼女はそれを見た時に確かな熱を感じた。
これを作れば、何かが変わる――人生の変化を求めた彼女は”天使”を作った。
深紅の機体は、多くの人間の返り血を浴びて。
恐怖や信仰の対象として見られるようになった。
彼女の最初の変化は、周りからの目だったらしい。
告死天使のバディーそれだけで彼女を狙う人間も多くいた。
相棒を捕まえれば、奴を思うがままに操れる。
企業や国家が彼女をつけ狙い、彼女はあっさりと一つの企業に捕まった。
何処にでもあるPMCであり、要求は天使に首輪をつける事であった。
抵抗すれば違法な人体研究所に送ると脅され――奴は何もしなかった。
企業を襲撃することも、要求を呑むことも。
彼女を救い出す姿勢すら見せなかった。
興味を失くしたかのように彼女とのバディーを一方的に切って――ゴウリキマルさんは見捨てられた。
PMCは彼女を研究所に送ろうとした。
しかし、東源国でメリウスの開発をしている人間たちが彼女に目をつけた。
裏で活動する闇組織。今の石川総合科学研究所と肩を並べるほどの研究機関で。
彼女はそこに身柄を移されて、そこで違法なメリウスの開発を余儀なくされた。
仮想現実世界からのログアウトを封じられ。
彼女は思い出すだけでも恐ろしい方法で身も心も凍り付かされた。
逃げ場はない、助けは無い。そう刷り込まれて彼女は心を閉ざした。
誰もが構想を抱いて、開発を断念したメリウスの無人機化。
パイロットが搭乗する時よりも能力を向上させた機体を大量生産する方法。
彼女はそれを生み出す事を強要されて――悪魔が生まれた。
無人機に使用するコアは従来の製品では意味がない。
それを使用したところでAIにも限界があり、多種多様な戦闘パターンには対応できない。
そこで彼女は、禁じ手とされる”人間”を使った実験を始めた。
仮想世界で生まれた空っぽの命たち、彼らの魂をデータ化して一つのコアに変えようとした。
機械に限界があるのなら、人間を機械にすればいい。
試行錯誤を重ねて、彼女の実験はその一年後に身を結んだ。
完全なる人間のコア化に成功し、それが搭載されたメリウスはパイロットが搭乗した時以上の結果を叩きだした。
相手の戦闘パターンを学習し、どんな環境下でも最適な行動を導き出す。
幅広い兵装にも適応し、敵対者を確実に屠る悪魔の兵器。
信じていた相棒に見捨てられ、洗脳に近い事をされた彼女は人生で最もやってはいけない罪を犯した。
正気に戻ったのは、送られてくる子供たちの顔を見た時だったらしい。
何も知らない彼らは、今からコアに変えられると聞いても理解していない。
ただもう空腹にも寒さにも怯えなくて済むと言われて、彼らは彼女にお礼を言った。
ゴウリキマルさんは逃げた。
組織の目を盗んで逃走し、それは上手くいった。
彼女が言うには、目的を達成した時点で彼女は用済みだったらしい。
行く当てもなくさ迷い。一度は現実に逃げて殻に閉じこもっていた。
しかし、ネットで見かける無人機の噂を見て、彼女は決心をした。
自らの過去は自らの手で清算しなければならない、と――
「……私は此処にのこのこと戻って来て、助けになる人間を探した……一度裏切られたから、中々信用できなかったけど……でも、お前からの依頼を受けて、お前の活躍を聞いて……お前なら、私を救ってくれる気がした……ゴウリキマルなんてふざけた名前だけどさ。お前になら、本当の名前を言っても良い気がした……こんな私の名前を受け取ってくれないか?」
彼女は儚い笑みを浮かべながら、俺を見つめる。
俺はその言葉を受けて――無言で首を左右に振った。
彼女はゆっくりと頷いて「分かった」と言う。
もう何もいう事は無いと出ていこうとして――俺は彼女の手を握った。
重い話は苦手だ。
俺はバカだから何を言ったらいいかも分からない。
誰かが悲しむ顔も見たくないし、能天気に笑っていられたら幸せだ。
だから、彼女にも笑っていて欲しい。
「ゴウリキマルさんの本当の名前を聞く時は――全てを片付けた時にします」
「……お前、それじゃ――っ」
彼女は嬉しさと悲しさが混じった表情をする。
唇を嚙みしめながら涙を堪えていて。
俺は笑みを浮かべながら、相棒の望みを叶える為に戦う事を誓った。
ベッドから起き上がり、俺は彼女の手を取って歩き始める。
彼女は黙ったまま俺の後をついてきて。
お互いに無言でありながらも、初めて互いに信用できた気がして――握った手を通して相手の鼓動が感じられた。
|||
俺が負けたあの深紅の機体。
あれが告死天使らしく。
ゴウリキマルさんが奴はまだ傭兵として活動していると認識した。
今後の方針としては、人体実験をして無人機を作っている企業か研究所を突き止める為に依頼を熟していくらしい。
一番怪しいのは技研らしいが、彼女が個人的に調べてもそれらしき情報は掴めなかったという。
もしかしたら、技研ではなくどこぞの国の傘下に入って開発を行っているのか……ダメだ。分からない。
頭を働かせれば知恵熱になりそうで、俺は自室で水を飲みながらチラリと横を見た。
そこには、だぼだぼの青いセーターを着たピンク髪をサイドテールにしたJKが寝転がっていて。
彼女はキラキラとしたお洒落そうな表紙の雑誌を読んでいる。
完全に寛いでいる様子であり、短いスカートは色々と危険であった。
「……あの、ショーコさん。何で家にいるの?」
「えぇぇぇ? あーしがいたら駄目なのぉ?」
「いや、駄目とかじゃなくてさ……どうやって家の場所を突き止めたの?」
「えっとーどっかの会社の社長さんがぁ、此処にいるからぁって教えてくれてさぁ。暇だから遊びに来たって訳!」
「……会社の社長……アイツか。アイツだろうな」
頭の中で狐顔の男が笑顔で手を振っているのが見えた。
俺は大きくため息を吐きながらも、まぁ仲間だから良いかと考えて。
俺は彼女が持ってきたポテチの袋を開けてからバリバリと食べた。
「あー! おじさんなに勝手にあけてんのー!」
「だっへおなはへったあら」
「もぉ!」
ぷんぷんと怒った彼女は体を起き上がらせる。
そうして一緒にポテチを食べて――違う違う。
めちゃくちゃ和んでいるけど、めちゃくちゃシリアスな事を考えていた筈だ。
俺は頭を左右に振ってからシリアスな顔を作る。
すると、ショーコさんはそんな俺の顔を見てゲラゲラと笑っていた。
俺は真面目な顔を作りながら、顎に手を当てて考える。
真剣に考える時間であり、横からギャルに頬を突かれても無視する。
「おじさぁん。無視しないでよーねぇねぇ」
耳元で囁く小悪魔は、俺のなけなしの理性を吹っ飛ばそうとしてくる。
そもそも、男の部屋に上がり込んできているのは――覚悟はいいか? 俺は出来てる。
「うおぉぉぉぉ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
獣にでもなったかのような雄叫びを上げながら襲うそぶりを見せれば。
彼女はわざとらしい声を上げながら楽しそうに笑っていた。
そんな時にガチャリと扉のロックが解除される音が聞こえて――ゴウリキマルさんと目が合う。
彼女はジッと俺たちを見て――端末を取り出した。
「……もしもし、警察ですか。家に未成年を連れ込んだ変態が」
「あ、あぁぁぁ!! うああぁぁ!!」
俺は慌てて彼女に駆け寄って必死に頭を下げた。
すると土下座する俺の頭を踏みつけながら。
彼女は底冷えするような声で俺を脅してきた。
「私の前で、いちゃいちゃすんじゃねぇよ――殺すぞ」
「ひ、ひぃぃ!!」
「ぎゃはははは! おじさんちょーよわーい!」
背の低い女性に頭を踏みつけられ脅され。
後ろから現役女子高生に指を指されて笑われる――実に無様じゃありゃせんか?
俺はこんな空気で良いのかと思いつつ。
笑みを浮かべながら、ぐりぐりと踏まれる状況を受け入れた。
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