014:一撃必殺

 機体を激しく柱にぶつけながら、不格好な軌跡で飛ぶ俺。

 新品だった紫電はところどころボコボコになっているだろう。

 帰ったら大目玉であり、ゴウリキマルさんにも謝らないといけない。


 アレから通信を試みたが、何故か繋がる事は無く。

 誰かからのジャミングを受けている可能性が高かった。

 恐らく、依頼主が仕込んだものであり、最初からこれはアイツの実験の為の罠だったのだろう。

 そんな事を考えている間に、奴は凄まじい勢いで接近してきて。

 遠慮なしに両手のガトリングガンを放ってくる。


 俺はそれを左右に機体を振りながら避けて。

 視界が狭まった中で、俺は残された秘密兵器のチャージ量を確認した。


「……120パーセント、まだだ。もっと、もっとッ!」


 これだけでは奴の装甲を貫くことは出来ない。

 エネルギーを大量に使えば帰れなくなるかもしれない。

 しかし、俺にとっては帰れなくなる事よりもアイツに負ける事の方が怖いのだ。


 死ぬ気で戦って無様な姿を晒してでも――俺は勝つッ!!


「気合いだァァァ!!!」


 俺はスラスターの位置を変えて、奴へと突っ込んでいった。

 無人機である奴は驚くことも無く。俺を視線に入れながら勢いを加速させる。

 俺はそんな奴の眼前で――機体を回転させた。


「――ッ!!」」


 機体を無理やり回転させた後に衝撃が機体を揺らす。

 奴との正面衝突であるが、機体を回転させたことによって衝撃を減らした。

 俺は吐き気を押さえながら、すぐさま機体を動かして奴の背後にピタリとついた。


 すぐ後ろについた俺に気が付いた敵。

 奴はセンサーをグルグルと動かしてから俺をターゲティングして。

 すぐさま機体を旋回させようとしたが、俺が許す筈もない。

 奴が旋回したタイミングで俺も旋回し、奴が停止しようとすれば俺も停止する。

 絶対に逃がしはしない。俺の鋼の意思が極限まで集中力高めていた。


《モード変更。完全破壊殲滅》

「――あ?」


 奴の動きが変わった。

 何とガトリングガンを柱へと向けて放った。

 進行方向上にある柱であり、奴は落下する瓦礫の合間を潜り抜けた。

 俺は舌を鳴らしながら、追随して紙一重で避けた。


 しかし、安心はできない。


 奴は柱という柱を破壊して進んでいっている。

 まるで、自分が生き埋めになっても問題ないというような行動で。

 俺は大いに焦りながらも、チャージがまだ完了していないことを確認した。

 このままのさばらせれば拙い――俺は一気にスラスターを噴かせた。


 なりふり構わず奴へと接近して、奴の頭上から撃とうとして――奴が背面飛行をした。


「アレはこの前の――ッ!?」


 出力全開時の俺の動きであり、何処まで記録しているのかと焦る。

 奴はそのままバラバラと銃弾をバラまいて、俺は決断を迫られた。

 スローモーションに感じる時間の中で、迫りつつある弾丸を見据えながら――俺は突っ込んだ。


 ハッチががん開きの中で銃弾の雨の中を突っ切る。

 機体に銃弾が掠めていき装甲が剝がされていく。

 こんな危険操縦はデータにないだろう?

 俺は笑みを浮かべながら、奴のセンサーへと左腕を向ける。


「喰らっとけやァ!!!」


 パイルバンカーが発動して、150パーセントの出力で放たれたそれが奴の頭を射抜く。

 バキバキという気持ちのいい音が響いた。

 すると奴のセンサーは大きくひしゃげて。

 センサーの故障により奴はふらふらと体を揺らしながら壁へと激突する。

 砂塵を巻き上げながら機体がゆっくりと地面に落ちて、奴は立ち上がりながら意味の無いセンサーを点滅させていた。


「時間稼ぎだが、成功!」


 俺はこのままチャージ完了までの時間を稼ごうとした。

 遠く離れながら柱の近くに着地して様子を伺う。

 だが、それは違っていたと気づく。


 奴の体から断続的に機械音が鳴ったかと思えば、勢いよく煙を出して。

 体のフォルムが一気に変わった。

 逆関節の二足歩行から、今は四脚に変わった。

 俺は不審に思いながらも、柱の陰からその様子を伺って――銃口が此方を向く。


 一瞬の動きを感知したのか。

 あまりにも感度が良すぎる反応であり、俺は肝を冷やした。

 このまま柱に隠れていても良いが、それでは何の解決にもならない。

 俺は周辺を見て――解決策を一つ思いついた。


「……やるしかねぇな」


 エネルギー充填率は200パーセントを超えて未だに上昇する。

 パイルバンカーに熱が籠って、コックピットの中にまで熱気が伝わる。

 それを多分に感じながら、俺は一気にスラスターを噴かせた。

 地面を滑りながらの移動であり、勿論奴は俺を狙ってくる。

 虫のように足を動かしながら接近してきて、精確に俺を撃ちに来ていた。

 俺はそれを何とか避けながら――跳躍した。


 背面が地面を向き、腰のサブアームが落ちていた"ハンドキャノン”を拾い上げる。

 俺はそれを手にして、反対へと更に加速した。

 勢いを殺すことなく突っ込んで、足で蹴り上げたもう一丁も回収して――俺は反撃に出た。


「そんなに感度が良いなら、これにも反応するよなァ!!!」


 ハンドキャノンの弾を込めて、狙いも何も無い攻撃を天井や柱に撃ち込む。

 施設全体が揺れており、いつ崩落してもおかしくない状況で。

 俺は迷わず辺り一帯を破壊していった。

 すると、天井などから残骸がバラバラと落ちて、奴の生き残ったセンサーは敵を識別できずに誤作動を起こしていた。

 俺はそんな奴へと一気に近づいて――密着した。


 ガシャンと派手な音を立てて奴に馬乗りになり、奴の頭を片手で押さえながら、右手のパイルバンカーを密着させた。

 俺は笑みを深めながら、死にゆく敵へと言葉を送った。



「俺のありったけだ――貫けッッ!!!」



 300パーセントを超えての一撃は俺の腕ごと奴の機体を大きく破壊する。

 バラバラと片腕の残骸が辺り一帯に散らばって。

 奴はコアを破壊されたことによって機能を完全に停止した。

 動かなくなった死体を一瞥してから、俺はゆっくりとそれから離れて――片膝をつく。


 あちこちからスパーク音がして、エネルギー残量もほぼゼロだった。

 暴れ過ぎたことによってこのフロアの崩落も間もなくで万事休すだった。

 俺はへらへらと笑いながら、帰れそうにないと考えて。

 ゆっくりとシートに背を預けながら、俺は死を受け入れようとした。


「最後まで戦えたんだ――死んだって、後悔はない」

《そうか。なら救助は不要か?》

「――は?」


 突然聞こえた声に驚き視線を入り口の方に向ける。

 するとそこには白と赤のカラーリングのメリウス二機が此方に向かって飛んでくるのが見えた。

 俺は貴方たちは誰で、何をしにきたのかと質問した。


《緊急依頼があって来た。君を救助すれば、多額の報酬を出すと言われてな。悪いが、依頼人については言えない》

《彼女さんですかぁ? 今にも泣きだしそうな声でしたよぉ?》

《……リリーナ。喋り過ぎだ》


 俺の救助依頼をされてやって来た謎の二人組。

 俺はそいつらに抱えられながら、その場を離脱することに。

 危機は去ったから良いものの、一体誰が俺の救援依頼を出してくれたのか……?


 あの謎の依頼主は出さないだろう。

 ということは一人しかおらず――俺は顔をニヤつかせた。


 頭からダラダラと血を流しながらくつくつと笑う俺。

 通信越しに二人が呆れているように感じて俺は咳ばらいをした。

 そうして帰ったらどんな顔で会おうかと考えながら目を閉じて。

 かんかんに怒っている相棒の顔が瞼の裏に映っていた。

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