013:闇で待つ無人機

 セントラルパークでの出会いは俺にとって良かったと思う。

 アリア・マクラーゲンという女から聞いた話を俺は知らず。

 あのまま何も知らないで殺しを繰り返すのは今考えれば少し嫌だった。

 俺がやって来た事はゲームかもしれない。

 ただそのゲームに取り組む姿勢は改めて、今度からは真剣に命のやり取りをしようと思った。


 例え相手が女子供でも、戦う意思があるのなら――全力で殺す。


 そう心に誓いながら、俺は謎の依頼主から送られてきた座標へとやって来た。

 極東に位置する極寒の地であり、そこには大きなシェルターらしきものがあった。

 俺は迷ったものの、このまま立ち尽くすのは時間の無駄だと判断して。

 辺りを警戒しながら、内部へと侵入した。


 今のところは敵の反応は無く。

 俺のスラスターの音が反響して聞こえてくだけだった。

 中は相当深く長いようで、俺はゴウリキマルさんの言うように万全の状態で臨んで良かったと思った。


「にしても、エネルギーの消費量を半減させるなんてすごいですねぇ。実質これで今までの2倍の仕事が出来る訳ですからねぇ。やっぱりゴウリキマルさんは凄いなぁ」

《……あぁ》

「……この腕に取り付けたパイルバンカーでしたっけ? 一撃必殺の武器みたいで格好いいなぁ! 確かチャージしたエネルギー量によって威力が変わるんですよね? 短ければ威力が落ちて、長く溜めればどんな装甲も貫く槍になる――格好いいですね!」

《……あ? 何か言ったか》


 俺が話しかけても上の空のゴウリキマルさん。

 俺は大きくため息を吐きながら、何か気がかりでもあるのかと彼女に聞いた。

 しかし、彼女は「別に」というだけで何も教えてくれない。

 俺はどうしたものかと思いながら長い通路を進んでいって――開けた空間に出た。


 何本もの大きな支柱に支えられた広々とした空間で。

 此処は一体何の為に建造されたのかと考えた。

 どうみても、避難用のシェルターにしては大き過ぎる。

 まるで此処で――何かの実験をしていたかのようだ。


「ゴウリキマルさん、此処は何なんですかね? こんなに広い空間……ゴウリキマルさん?」

《――》


 通信越しに彼女が動揺しているのが伝わってきた。

 俺はどうしたのかと思って、ふと前から気配を感じて視線をそちらに向けた。

 すると、薄暗い空間の中心で青い輝きが見える。

 俺はハンドキャノンを構えながら、ゆっくりと中心へと歩みを進めた。


 徐々に光の下へと近づいて行って――その正体に気が付いた。


「……青いメリウス?」


 逆関節の足で立ち、丸まったフォルムの見たことも無い青いメリウス。

 背中には飛行機の翼のような物が生えていて、ノズルらしきものも四つほどついている。

 全長は俺の機体よりも三メートルほど高そうで。

 腕はガトリングガンらしきものと一体化していた。

 青い光の正体はこのメリウスのセンサーから発せられていた光であった。


 俺が目の前に立つとメリウスはゆっくりと顔を向けてくる。

 そして首を傾げながら、俺の事をジッと見つめてきていた。


《お――ちゃん――あ、そ――そ、ぼ――!》

「……無人機じゃないのか?」


 途切れ途切れであるものの、子供の声がするメリウス。

 俺は誰か中に入っているのかと問いかけた。

 しかし返事はなく。謎の青い機体はジッと俺を見つめていた。


「……ゴウリキマルさん、どうしますか? これって本当に無人機ですかね?」

《――ぅ!》


 やはり、ゴウリキマルさんの様子が可笑しい。

 俺は奇妙な違和感を抱きながらも、このままでは埒が開かないと考えて。

 捕獲兼転送用のキューブを異空間から取り出した。

 これを対象に当てれば捕獲完了で、拍子抜けするほどに簡単な仕事であったと思った。


 俺はヒョイッとキューブを投げる。

 キューブは弾けて光の粒子が青いメリウスを包み込み――四散する。


「……は?」


 捕獲が失敗して、メリウスの様子が変化する。

 青く光っていたセンサーは攻撃的な赤へと変わり。

 ブルブルと機体が震えたかと思うと、ぎこちない動きで俺を見てきた。


 瞬間、奴の銃口が俺に向く――ッ!


 俺は一気にスラスターを噴かせてその場を離れた。

 僅かな差で元居た場所に勢いよく銃弾が殺到して。

 ガリガリと床を大きく削り取っていた。


《敵対行動を確認。対象を排除します》

「……そう簡単にはいかないか」


 俺はハンドキャノンを構えて発射する。

 精確に奴のコアへと向かったそれは綺麗に弾かれてしまった。

 高速徹甲弾でも傷一つ付かない装甲か……厄介だなぁ。


 スラスターを噴かせて逃げ回る俺。

 柱の陰に隠れながら様子を伺えば――目の前に敵が迫っていた。


「うぉ!?」


 無言で柱にタックルをしてきた敵。

 柱を半ばから破壊しながら、俺へと突っ込んできて。

 俺は驚きながらも、何とか回避した。

 しかし、安心してはいけない。奴は俺が逃げれば遠慮なしにガトリングガンを放ってくる。

 アレを喰らえば一たまりも無い。

 機動力を武器にしながら、俺は距離を取ろうとした。


 すると、奴の背中のスラスターはけたたましい音を奏でて突っ込んでくる。

 まるで、機体そのものが大砲の弾のようで。

 無様に逃げまどう事しか出来ないのだ。


 逃げながらもハンドキャノンを弱点と思わしき箇所に放つ。

 センサーは駄目、武器を狙っても駄目、足を撃っても無意味。

 どこもかしこも頑丈であり、その上、バカみたいな速さで突っ込んでくるのだ。


「高い耐久力に速度か。憧れちゃうなァ!!」


 俺はハンドキャノンを一点に向かって連射した。

 それはコアの部分であり、何とかアレを破壊して見せようとしたのだ。

 最早、捕獲なんて考えは捨てていて。アレは破壊すると決めた。

 チュンチュンと全ての弾が弾かれて、空中で停止する俺に突っ込んでくる敵さん。

 俺はそれを好都合だと思いながら――自分も前に飛んだ。


「行くぜッ!!」


 チャージは完了している。

 すれ違いざまに、奴のどてっぱらを狙って――撃ち込むッ!!


 腕の横に取り付けられたバンカーが作動して奴の装甲に突き立てられる。

 凄まじい破壊音を立ててバンカーが命中し。

 奴は真っすぐ飛ぶことが出来ずに天井に突っ込んでいった。


「ざまぁみろッ!」


 やってやったと言わんばかりに笑いながら俺は奴を見つめる。

 瓦礫と一緒に奴も落ちてきて――センサーが俺を捉える。


 危機感を抱いてその場から離れる。

 しかし、奴は凄まじい勢いで俺に追随してきた。

 今までの単調な動きではない。

 俺が旋回すれば真似して、俺が柱を縫うように移動すればまた真似して――俺の動きをコピーしているのかッ!?


 同じ動きをする敵は、ガトリングガンを俺へと向けてきて勢いよく乱射した。

 バラバラと弾丸がバラまかれて、俺は地面へと向かって急降下した。

 

 

 しかし、それは悪手であったと俺の本能が告げていた。


 

「――ッ!?」


 けたたましいアラートが鳴ったかと思えば、眼前を青い機体が埋め尽くして。

 俺は奴にガッツリと掴まれながら、地面に向かって叩き落された。

 機体内が激しく揺れて、俺は吐しゃ物をまき散らす。

 コックピットの中が激しくスパークしており、センサーもイカれちまったようだ。


 砂嵐のような画面を見れば、敵がゆっくりと俺の方に銃口を向けている。

 俺は意識を保ちながら、機体を動かして奴の体を蹴りつけた。

 その反動で後ろへと下がって、スラスターを噴射して後退する。

 ジャリジャリと地面を削りながら、停止すれば相手が俺をジッと見つめながら固まっていた。

 それはまるで、深手を負ったネズミを猫が観察するようで――俺はキレた。


 両手に装備していたハンドキャノンを投げ捨てる。

 そうして、両手を動かしてコックピットのハッチを掴む。

 俺は力任せにそれを引きちぎって放り捨てた。

 センサーが機能しない今、こんなものを付けていたら邪魔なだけだ。


 俺は頭から血を流しながら、笑みを深めた。


「さぁ第二ラウンドだ。テメェの腹に――かざ穴、空けてやるよ」


 紫電の腕を動かして、かかって来いと挑発する。

 それを受け取った敵はギギギと体を動かしながら突っ込んでくる。

 楽しい楽しい戦闘が、俺の心を躍らせてくれる――

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