007:イレギュラーの介入

 有象無象の敵たちを飛んでいる蚊のように叩いていく。

 元々傭兵は個人で活動している者が多く。

 彼らには連携というものが一切ない。

 まぁ此方も似たようなものだけど、彼らは自分の身くらい自分で守れると思うので気にしない。


 弾を変則機動で避けていって、ロックオンした敵にサブマシンガンを放つ。

 今のところは八十パーセントくらいの確率で命中していて。

 まずまずの集弾性だと思いながら、俺は列車の安全も確保しておいた。

 俺たちを無視して列車に攻撃を仕掛けようとしている人間は真っ先に潰しに行く。

 だって、此方に意識が向いていないのだから堕としやすいのだ。


 今も一機が特攻でもするように突っ込んでいって。

 俺はそいつの背後からスラスターを狙って撃墜した。

 火の手を上げながら、列車の脇に墜落して爆散した名も無きパイロット君。

 俺の星となってくれた彼に角砂糖一個分くらいの感謝を心の中で述べながら。

 俺は段々と数が減っていた敵の勢力を見て満足げに頷いておいた。


 守る側であっても、立ち回りさえ何とかすれば勝てるもんだな。

 俺は初めての護衛任務にもやりがいを感じて。

 後は適当に残った残存勢力を叩こうとして――妙な通信を拾った。


《あ? 何だ動きが、悪い……ちが……き、た……虫ッ!……ぁ――》


 ぶつりとオープン回線で話していた誰かさんの声が途切れた。

 俺はその意味深な最後の通信に違和感を覚えて。

 敢えて上空へと上がって戦局を見られる位置に付いた。


 上空から見れば、妙な黒い靄が見える。

 それは敵も味方も関係なく覆いつくして。

 暫くすれば、包まれたメリウスたちは激しくスパークしながら機能を完全に停止していた。

 ゆっくりと墜落していくメリウスは、見ている限りでは損傷はなく。

 あの黒い靄の何かが影響して、その機能を強制的に奪われているように感じた。


「……あれは、何だ?」

《――気を付けろ。特殊兵装を持ち込んだ奴がいるみてぇだ》

「特殊兵装?」

《あぁつい最近開発されたどの武器種にも属さない形状をした武器だ。何かに突出した性能か、一風変わった力を持っているって噂だ。あれは恐らく……超小型の機械虫だな。間違ってもアレには触れるなよ》


 ゴウリキマルさんも俺が見ている光景が見えているようで。

 彼女の説明を聞いて、アレがとんでもなくやばい代物だと分かった。

 あのまま放置していれば、列車も止められてしまう恐れがある。

 俺は何とかする手立てはないのかと彼女に質問した。


《あるにはある。機械虫はオートで動いているけど、それを制御する人間を必要としているはずだ。あの中に、アレを操っている奴がいる。そいつを叩けば、あの黒い靄は勝手に機能を停止する筈だ》

「……誰だ? 誰が……ん?」


 俺は小さなメリウスたちを見ながら、ある一点に目が行った。

 それは、一体だけ乱戦状態のフィールドから遠ざかって眺めている人間がいて。

 そいつは何もせずに戦場を眺めているだけだった。

 あの位置からならば、戦場全体が見えるだろう。

 岩陰に隠れながら眺めているのは――テディ君の機体だ。


「……外れたら怒られるけど……やってみるか」


 俺はスラスターを一時停止して自由落下を試みた。

 風の力だけでテディ君の元へと行ければレーダーに感知される心配もない。

 僅かなシステム以外の動力を停止して、機体の微調整をしながら彼の真上に行って――エンジンを再始動した。


《――上ッ!?》


 驚いて上を見上げたテディ君。

 しかし、此方はロックオン済みであり、もう逃げられない。

 俺はそのままサブマシンガンを乱射して――見えない何かに防がれた。


「――え?」


 驚きつつも、野性の勘で急旋回して横へと飛ぶ。

 すると、俺がいたところの空間が僅かに歪んで。

 勢いよく何かが振られたような音が一瞬だけ聞こえた。

 俺は少しだけ考えて――彼の相棒であるサリーさんがいないことに気がついた。


「……熱源センサーON」


 サーマルに切り替えて俺はテディ君の周辺を見た。

 すると、確かにガタイの良い機体が一機だけテディ君の近くで浮遊している。

 熱源センサーにしか捉えられないということは、アレは光学迷彩を積んだメリウスで。

 お金があるんだなぁと思いながら、俺は二人に通信を繋いでみた。


《はーい! 貴方から掛けてくれるなんて嬉しいわぁ。それで、何か用事かしら?》

「……何で敵味方関係なく襲う。契約違反だ」

《ん? 契約違反ではないわ。だって私たちは――最初から依頼なんて受けていないから》


 最初から依頼を受けていないと言われて俺は眉を顰める。

 つまり、依頼を受けたメリウス乗りに紛れていたということだ。

 目的は何なのかと聞こうとして――俺は上空へと勢いよく上昇した。


 横合いから何かが飛んできた気がしたが見えない。

 俺はサーマルを停止して、通常の索敵モードにて現状を確認する。

 すると、さっきまで列車の周りにいた虫たちがテディ君の周りに集まっていた。

 テディ君はくつくつと笑いながら、底冷えするような声で言葉を発した。


《ふ、ふふ。貴方がいけないんですよぉ。本来なら、安全圏で雑魚を一掃して、列車の積み荷を奪う手筈だったのに……お願いですから、そのまま死んでくださいよォ!》


 狂気的な声で死ねと言われた俺は内心で大いに焦る。

 そんな中で、虫が奇妙な軌道を描いて襲い掛かってくる。

 俺はスラスターを噴かせて何とか逃げようと試みた。


 機械虫たちはそんな俺を執拗に追いかけてきて。

 全力でスラスターを噴かせても撒ける気がしなかった。

 いや、ジリジリと俺に近づいてきている気すらする。

 このままでは、あの靄に包まれて俺の機体もおしゃかにされてしまうだろう。


 俺はゴウリキマルさんにコールして現状を簡潔に伝えた。

 このままではピンチだと、どうすれば奴の機動力を上回る事が出来るかと。


《……隠していた機能が一個だけある。それを使えば紫電の機動力は飛躍的にあがる》

「それはどうやれば?」

《……機能は音声認識で発動する。リミットは三分だけだ。三分を超えて使ったら、オーバーヒートでエンジンがイカれる。離脱するなら三分以内だ。音声コードは――だ》


 俺は音声コードを受け取ってニヤリと笑う。


「ゴウリキマルさん。一体何時、俺が逃げるなんて言ったんだ?」

《何を言って》

「その機能は逃げるためじゃない――戦うために使うんだよッ!」


 俺は迫りくる敵の影を感じながら大きく息を吸い込む。

 そうして、音声コードを発した。



「――出力全開フルバーストッ!!」

《音声コード確認。能力解放》



 システム音声の後に、コックピット内が青白く発光する。

 それと同時にスラスターの勢いが増したのを感じた。

 これで特殊兵装と渡り合える。

 三分ぽっきりの力だが――成し遂げて見せるさ。


「――Come on!!!」


 後ろを向きながら、両手に持つサブマシンガンを乱射する。

 勢いよく発射された弾丸が機械虫を撃ち落し、激しい火花を散らしていた。

 列車の護衛任務は第二ラウンドを始めて、俺は心のままに笑った。

 

 闘争本能が――激しく駆り立てられる。

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