006:荒野を疾走する列車を守れ
ゴウリキマルさんとバディーを組んでの初の仕事。
彼女が言うには、技研もオーレリア公国も関係ない仕事らしく。
ミッドガルド帝国の帝都から250キロ離れた場所にあるムムルスという街に向かう列車の護衛依頼らしい。
あんまり護衛はしたくないと伝えたけど、ゴウリキマルさんはやっておけと言ってきて。
俺は確かにこういうことにも慣れていた方が良いと思って依頼を承認した。
《噂では、あの列車には高貴な身分の誰かさんが乗っているらしいぜ。だから、お前以外にもメリウス乗りがわんさかいやがる》
「……全部あの人たちに任せたらいいんじゃないですか?」
《阿保か。給料泥棒何て真似したら、お前は今後一切ミッドガルドの依頼を受けられなくなるかもしれないんだぞ?》
「……消去法で東源国の依頼を受けることに……モルモットは嫌だなぁ」
《だったら、撃墜数ナンバー1になるくらいの気持ちでやれ。その為に、武装も変更して装弾数が多くて連射性の高いサブマシンガンにしたんだからな。一機でも多く落とせ。頑張れよ》
ゴウリキマルさんはそう言って通信を切った。
俺は大きくため息を吐きながら、周りを見た。
すると、色とりどりの機体が線路の近くで待機していて。
目算だけでも十五機はいそうであった。
こんなにいるのなら大丈夫だと思うけど……。
ただ広い荒野のど真ん中には、年季のある線路と貯水タンクくらいしかなく。
大きな山などを掘ってトンネルを作っているようで、俺たちの近くにはトンネルが一つ掘られていた。
あそこを通って列車が来るようで、それぞれがポイントAとBでチームを分けていた。
俺はポイントBチームに割り当てられて、後半の護衛部隊として働く。
空を見れば曇り空で、もしかしたらここら辺で住む人にとっては一か月ぶりのスコールになるかもしれない。
俺が戦う時は決まって雨が降っている気がするけど……俺は雨男なのか?
俺が心の中でぶつぶつと文句を言っていると。
また知らない誰かが通信を繋げて来ようとしていた。
俺は迷った末に通信を繋いでみた。
《ははは、繋がった繋がった。おーい! 聞こえてるー? 私は貴方と同じ傭兵のサリー。傭兵ランクはCだよー。よろしくねー》
「……」
《あれぇ? 聞こえてないのかなぁ? もしもーし》
《サリーさん何やってるんですか!? そそそその人は誰とも喋らないって噂の人ですよ!》
《えぇそうなの? 貴方って無口な人なのね! おしゃべりは苦手?》
《ひぃぃ!! サリーさん殺されますよ!! 彼は単身で特殊部隊を壊滅させた男ですよ! 噂では闇組織にも関りが》
《もうテディ! 彼の前で何を言っているの。今日は私たちは仲間なんだから! 彼だって分別くらいあるわよ。ねぇ》
「……」
サリーという陽気な性格の女の人とテディという気弱そうな男の人が会話している。
俺は初対面の人間と話すのが苦手で、未だに一言も喋れていない。
何か言った方が良いかと思って考えて、俺は勇気を振り絞って声を出した。
「……
《――ふぅん。思っているよりも好戦的なのね貴方》
《ひ、ひぃぃ!!》
挨拶をすれば怯えられて、どういうことだと頭を抱えた。
小さな疑問を抱きながら、サリーさんとテディ君が乗っているだろうメリウスを見る。
サリーさんの機体は白いカラーリングの足回りや胴体部分がゴツイ機体で。
手には近接武器の大剣と大きなタワーシールドが構えられていた。
一方でテディ君の機体は、武器らしきものを装備しておらず。
背中に大きなノズルが一つ付いたランドセルのような物を背負っていた。
カラーリングは紫を基調としていて、彼の性格とは違って何か毒々しい。
二人とも、デフォルメされていない心臓に矢を突き刺したような絵柄のデカールを胸に張り付けている。
俺も彼女たちみたいなイカしたデカールが欲しいと思う今日この頃。
しかし、デカールのデザインなんてした事も無ければ、美術の成績だって毎回2だった。
本来は1の所を努力している姿だけ認めてくれての2であり、絵心はまるでない。
こんな事ならもっと絵の勉強をしておけばよかった。
いや、そもそも傭兵になって自分専用のデカールを作りたいと思う事なんて想像できないだろ。
はぁ、誰か絵心のある人で俺のデカールを作ってくれる人はいないかなぁ……いないよなぁ。
頑張って挨拶をしてみたら何故か好戦的だと思われた上に、絵心の無い自分の不甲斐なさを痛感する。
ダブルのショックを味わった俺は真顔で前を向いていた。
すると、司令部から連絡が入った。
もう間もなくこのポイントに列車が来るようであり、此処から引き継いで街まで護送するらしい。
トンネルを抜けてくれば姿を現すらしく、司令部は気を引き締めろと言ってきた。
俺はどういう意味なのかと考えて――その意味をすぐに理解した。
蒸気を上げながら出てきたレトロな列車は、所々が破壊されていて。
一番後ろの客車に至っては半ばから壊されていた。
オンボロというわけではなく今さっきまで何かと戦っていた証拠であり、俺は厄介事だと決めつけた。
オープン回線越しに仲間たちが狼狽えているのが伝わって、これをしたのは誰なのかと聞いていた。
司令部は謎の勢力による武力介入である可能性が高いと言っていて。
すぐに敵が追い付いてくると言っていた。
俺たちは列車に追随しながら山を見つめて――来た。
山を越えて無数のメリウスが此方に向かってくる。
色などの統一感が全くなく。
仲間との識別信号が無ければ乱戦になっていただろう。
となると、謎の勢力というのは十中八九が別の傭兵集団である。
《別の依頼を受けた傭兵同士で戦うの? 珍しいわね》
《あぁ、だから僕はやめようって言ったのに!》
サリーさんは冷静に分析して、テディ君は恐怖している。
俺はやってくる敵を見ながら、脳内で計算を始めた。
より多くの敵を倒せば倒すほど報酬が上がる。
それだけ働いたという証拠になり、運が良ければ弾代とかを差し引いてもそれなりのお金になる気がする。
ゴウリキマルさんに3渡して、俺は残った7を受け取り――うん、沢山倒そう!
俺はすぐに自分の役割を理解して、敵の軍団に突っ込んでいった。
他の仲間たちが慌てているのをよそに、俺は一気に加速して。
慌ててライフルを向けてきた先行を駆ける敵へと照準を合わせて、サブマシンガンの引き金を引いた。
狙ったところを精確に打ち抜き、瞬く間に二機を行動不能にした。
すれ違いざまの行動に驚いている敵だが、数名を俺に宛がって残りは列車を追いかけた。
通信越しにサリーさんがこっちは任せてと言っているので任せてみよう。
すぐにこちらに残った数機を倒して、彼らに合流する――とでも言うと思ったかッ!!
「――ッ!?」
爆発的な推進力を背にフルスピードで相手に突っ込む。
敵は慌ててライフルの弾を放つが、碌にロックも出来ていない銃弾が当たる筈も無く。
ちゅんちゅんと薄く装甲を撫でるそれを避けてから、彼らの包囲網を強引に突破した。
そうして、お宝の群れをターゲティングして俺はサブマシンガンを構える。
「――大漁だッ!!」
サブマシンガンは火を噴きながら弾丸を発射する。
俺は混乱している敵を獲物として狙い仕留めに行く。
アレだけの数がいるのだ下手な撃ち方をしたって誰かには当たるだろう。
ゴウリキマルさんのアドバイス通りサブマシンガンに変更して良かった。
そう思いながら――俺の荒野での攻防戦は幕を開けた。
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