005:運命を共にする相棒
工場での仕事を終えて帰宅。
そして次は、仮想現実世界で傭兵のお仕事をする。
幸運な事に、仮想現実での時間は現実よりも進みが速く。
十時間くらいいたとしても、現実ではその半分の五時間くらいしか経っていないのだ。
まぁ仕事ばかりしていたらそりゃ疲れるけども……。
この前の闇組織アンダーヘルの拠点の破壊依頼は無事に達成できた。
依頼主は何か持ち帰ったのかと聞いてきて。
俺は適当に必要ないから持って帰っていないと言っておいた。
すると何故か、彼は追加の報酬を俺に渡してきた。
最初は五万ラスだったのに、追加で三万ラスだ。
合計八万ラスであり、最底辺のFランにとっては破格の報酬だろう。
俺は何でこんなに多くくれたのかと疑問に思いつつ、振り込まれたそれを黙って受け取る。
そうして、機体のメンテナンスと弾薬補給にエネルギー充填を行った。
まぁ今回は軽微ながらもダメージを受けてしまって、メンテナンス費用も少し高くなった。
だけど、諸々を差し引いても三万ほどは残ったのだ。
俺はこのお金を現金化するか迷った。
レートを確認してみれば、現実のお金と仮想現実での交換レートは何方も1:1である。
つまり、そのままの金額が俺の収入になる訳で。
これを換金すれば、手元に三万円が入るというわけだ。
「……あれ、案外チョロいのか?」
呆気なく、二回目の依頼でそれなりの額を稼げた。
これくらいあれば副業と言っても差し支えなく。
俺は傭兵という仕事が楽しい仕事ではないかと思い始めた。
「あ、そういえばさおリンさんの生配信がそろそろ始まるな。チェックしないと」
俺は端末を操作して、空中に映像を映し出した。
すると、そこには笑顔で手を振っている女性ライバーのさおリンさんがいた。
青い髪はツインテールにして、猫のような可愛らしい目はとても愛くるしい。
その黄金色の瞳が俺を見ているようで、思わずスパチャを投げたくなってしまうのだ。
今日はどんな配信内容なのかと思いながら俺は黙って見つめて――
《あ、今日はね。最近話題のメリウスについてお話ししたいなぁって思います》
「話題のメリウスか……化け物みたいに強いんだろうなぁ」
《はい、じゃーん! このメリウスです! 画像が荒いから良く見えないと思うけど、嵐だったからごめんねぇ!》
「うーん? 黄色なのか? 俺のメリウスに似ているけど。これが話題になっているのか」
さおリンさんが言うには、ついこの間、ふらっと戦場に現れて多くのメリウスを撃墜した謎の傭兵で。
その中でも、敵が隠し持っていた秘密部隊を単身で壊滅させたらしい。
オーレリア公国は謎の機体の情報に報奨金を与えるようで。
一方で、助けてもらった形のミッドガルド帝国は謎の機体を自国のパイロットに迎えようとしているようだ。
《もしかしたらもしかしたらぁ。その内に手配書に載っちゃうかもねぇ。謎の機体を倒した人は、一気に箔がついちゃうぞぉ。見ているかもしれない謎の機体のパイロットさん! 気を付けてねぇ》
「さおリンに気にかけてもらえて幸せな奴だな……ん? こんな時に誰だ」
扉がノックされる音を聞いて、俺はむくりと立ち上がる。
そうして、面倒臭く思いながらも覗き穴で相手を確認する。
すると、そこにはフードを目深く被った少女らしき人間が立っていた。
赤黒いパーカーに青いホットパンツで、ラフな格好の訪問者だ。
ちらりと見える髪は赤毛で、華奢な彼女はどう見ても十代前半の子供だろう。
俺は迷った末に鍵を開けて、その人物の前に立った。
「あの、何方様ですか?」
「……へぇそんな面してたんだなマサムネ」
「え、何で俺の名前を……」
「あぁ? まだ気づかないのか。私だよ。ゴウリキマル」
「……え、え、あ、ご、ゴウリキマルさん? え、可愛いですね」
「……何言ってんだてめぇ」
可愛いと言われて照れることも無く。
ヤンキーのような目で俺を睨みつけるゴウリキマルさん。
しかし、身長は150センチほどしかなく。
小さな女の子に凄まれたとしても怖くもなんともない。
俺は取りあえず謝って、中で話そうと彼女を招き入れた。
殺風景な部屋の中を見てもゴウリキマルサンは何も言わない。
俺は彼女の座るところに座布団を敷いて。
急須に入ったお茶を新しい湯呑に注いで、それをゴウリキマルさんに渡した。
「……あんがと」
「あ、いえいえ」
温かいお茶を男らしく飲むゴウリキマルさん。
ゆっくりとテーブルに置いてから、彼女は端末を操作してある物を俺に見せてきた。
それはさおリンが配信で写していた写真と同じで。
俺はどうしたのかと彼女に尋ねた。
「……これ、お前だろ」
「え? いやいや、そんな訳ないじゃないですか。ははは」
「……私はこれでもメカニックだ。ましてや、自分が作った物を忘れるほど馬鹿じゃない。お前が乗っていないのなら、誰に乗らせたんだ。正直に言え」
「……えっと、紫電は俺が使っています。誰にも貸していません」
「……じゃ、今までは何処で戦ったんだ。一個ずつ言ってみろ」
ゴウリキマルサンは頬杖をつきながら、俺に説明を要求してきた。
青い瞳に見つめられる中で、俺は困惑しながらも最初はヨーム高原近くの戦場で戦って、次は東源国の近海にある島で戦ったと伝えた。
ハッキリと答えて見せれば、ゴウリキマルさんは大きくため息を吐く。
「やっぱりお前じゃん」
「えぇ!? 俺が注目されているパイロットなんですか!?」
「何で驚いてんだよ。自分の実力は自分が良く分かってんだろ? はぁぁ」
頭痛でもするのか眉間を揉むゴウリキマルさん。
彼女は俺に変わった事は無いかと尋ねてきて。
俺は俺を指名する依頼が一気に増えたことを伝えた。
すると、彼女は真顔で依頼一覧を見せろと言ってきた。
何をするのかとビクビクしながらも、俺は依頼を全て見せた。
すると、隣に座った彼女から甘い香りがして。
思えば、初めて女性を部屋に招いたのだと理解して急に恥ずかしくなった。
しかし、彼女はそんなことなどお構いなしで、一つずつ依頼を確認していった。
「おいおいおい。これほとんど技研の連中からの依頼じゃねぇか……残りは、オーレリア公国か。これはお前を焙りだす為だろうな」
「ぎ、技研とは?」
「あぁ? 技研ってのは”石川総合科学研究所”だよ。東源国を本部に持ったそれなりに名のある企業で……まぁ要するにマッドサイエンティストの集まりだ。そいつらがお前を試して実験をしようとしていやがる。ほら、こいつらの名前のイニシャルを取ったらIとKだろ? アイツらは偽名を使う時、決まってIとKの頭文字で偽名を作るんだ……良く分かんねぇけどよ」
「え、もしかしてこの前の依頼は……一色浩司、IとKだ!?」
「……もう受けちまってたか。それで、その依頼で変わったことは?」
「えっと、闇組織のアンダーヘルの拠点の破壊を依頼されて、それで戦って勝って……あ、何も持って帰らなかったら依頼達成報酬を沢山くれました!」
俺が笑顔で説明すると、ゴウリキマルさんは表情を凍りつかせていた。
「……アンダーヘルに、喧嘩を売ったのか……夜道には気を付けろよ」
「え、ぇ、ぇ、え?」
「まぁそれは置いておいて、何も持って帰らなかったのは賢明だな。恐らく、持って帰れるものはほとんど違法のもんだし。お前が誠実に依頼をこなすかをチェックしてたんだろ。アイツらは機械だけじゃなく、人間自体の研究もしてるって噂だしよ」
「おいて、おい、おいて、おいちゃダメでしょ!?」
「あぁ気にするな。別にナイフで刺されたってすぐに復活するだろ。現実世界で活動しているアンダーヘルはいねぇみたいだし、いざとなりゃ現実に逃げろよ」
手をひらひらとさせながら、ゴウリキマルさんは俺を見捨てるような発言をした。
俺は涙目になりながら、彼女を恨みがましく見る。
すると、ゴウリキマルさんは舌を鳴らしてから端末を操作した。
ピロンという音と共に、何かが送られてきたと分かる。
俺が自分の端末をチェックすれば、彼女からバディーの誘いが来ていた。
「……まぁお前はメカニックの私にとって最初の客だし。このまま放っておくのも忍びねぇからよ……バディーを組んで、お前のスケジュールとか組んでやるよ。それでいいだろ?」
「ご、ゴウリキマルさん! あ、ありがとうございます!」
「おいおい、笑いながら泣くなよ……調子狂うぜ」
ゴウリキマルさんとバディーを組んだ。
これでどんな依頼が来ようとも、ゴウリキマルさんの目で確認された安全な物しか来ない。
俺は優しいゴウリキマルさんに感謝しながら、秘蔵のお茶菓子を持ってこようと――
「ま、取り分は3:7でいいからよ。私が3な? 優しいだろ?」
「……お金取るんですか!?」
「あぁ? 慈善事業じゃないんだ。金は取るだろ」
前言撤回だ。
守銭奴のゴウリキマルさんには煎餅でも食べさせておこう。
俺は涙を流しながら、傭兵生活も楽ではないと痛感したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます