004:赤髑髏の海賊兄妹

 恥ずかしがりながらも、懸命にスワンボートを漕いで小島に到着。

 裏手に回り、紫電を転送してからさっさと乗り込んで、俺は目標地点へと飛んでいった。

 

 現在は嵐がやって来て、海は大きく荒れていた。

 スワンボートは外国人のお兄さんたちが持って帰ったので問題ない。

 こんな荒波の中で船を出す人間はいない筈で……あれ、さっき船が出て行った気が。


 記憶の端らへんにチラついている。

 しかし、深く気にしている余裕はない。

 今から俺はお仕事タイムであり、もう島は目の前に見えていた。

 高性能レーダーでもあれば既に発見されている頃だろう。


「まぁ誰も出てこないし先制攻撃でも――ぉ?」


 勘で横へと回避行動を取った。

 すると、何かが脇を掠めていく。

 見れば木々の間から砲身らしきものが伸びていて。

 スナイパーらしき何かが俺を狙撃してきたと分かった。

 発見されたのであれば、コソコソする必要もない。


 二機の敵のメリウスも出てきていて。

 完全に俺を敵とみなしているのだろう。

 先制攻撃をして卑怯者だと罵られることも無い。

 俺は気分的に楽に戦えることを嬉しく思いながら――一気に加速した。


 雨を弾き飛ばしながら、音速で飛ぶ紫電。

 小さかった島がぐんぐんと近づいてきて。

 慌てて敵が攻撃を仕掛けてきたのが分かった。


《誰だてめぇ!! くたばれやァ!!》

《逃げるなボケッ!!》

「……口悪いな」


 ぼそりと彼らの口の悪さに苦言を呈して。

 髑髏のデカールが張られたゴテゴテとしたメリウスにキャノンを撃った。

 彼らは嵐の中での戦闘に慣れているのか一発目はギリギリで回避していた。

 そして、彼らが俺の注意を引いて一瞬でも隙を晒せば木々に隠れたスナイパーが狙撃してきた。

 精確な射撃であり、確実に俺のコックピットを狙っていた。


「……面倒だなぁ。ゼロ距離も一時的に停止しなきゃ出来ないし……肉盾にするか」


 俺は回避行動を取りながら、センサーで捉えられる中で一番近い機体にマーキングをした。

 そうして、俺はその機体目掛けて加速して――彼の頭を掴んだ。


《な、なにすんだぁぁぁ!!?》


 凄まじい勢いで飛ぶ紫電に掴まれた。

 俺は彼を盾にしながら飛行して、困惑している敵に対して肉盾を放り投げた。

 大きな機械同士が金属音を立てながら激突して、俺は彼を律儀に受け止めた敵ごとコックピットを撃った。

 悲鳴を上げながら、羽を捥がれた虫のように落ちていく敵のメリウス。

 良い眺めだと思いながら、油断した俺を狙撃してくるスナイパーに目を向けた。


「ちょっと面倒だし、先に潰すか」


 連続射撃は出来ないようなので、奴が狙撃した後に回避して近づけば問題ない。

 距離が近づけばそれだけ撃墜されるリスクも跳ね上がるが――精確すぎて避けやすい。


 コックピットしか狙わない上に、射撃までの時間も大して変化が無い。

 目を瞑っても避けられるが、それは慢心のし過ぎなので絶対にしない。

 俺は加速を止めることなく敵スナイパーへと急接近した。


 一発目――機体を傾けて脇スレスレに回避。


 二発目――勘が働かないのでそのまま進んだら頭部スレスレを弾が通り過ぎる。


 三発目――は、ギリギリで装填が間に合わない。

 

 俺は葉っぱなどで擬態している敵を発見して。

 赤い単眼センサーで俺を見ている敵に対してハンドキャノンを――向けず、横に弾を放つ。


 すると、何かがその場から飛翔した。

勢いを殺すことなく手に持つ得物で切りかかってくる何か。

 仕方なく後ろへと後退して様子を伺う。

 葉っぱの中に埋もれていた何かが俺の前に姿を現す。

 緑を基調として、角ばったフォルムのチェーンナイフを両手に持つ単眼の機体で。

 胸の所には血のように赤黒い塗料で塗装した髑髏のデカールが張られていた。


《おいメイ。こいつ俺の事が見えていたぞぉ? それはどうしてだぁ?》

《……兄貴の鼻息が荒いから》

《あぁ? 俺って鼻息荒いのかぁ……マスク、買うべきかなぁ? おいぃ》

《今度作ってあげるから。集中して》

《おぉそれは良いなぁ。じゃこいつはさっさと――ぶっ殺しちまうかァ!!》

 

 狂気的な笑い声を上げながら、タダならぬ空気を醸し出すメリウスが突っ込んでくる。

 一旦距離を離そうとするが、俺の退路に合わせて銃弾を放ってくるスナイパー女。

 直線での回避は自殺行為で、少しでも速度を落とせば、笑い声を上げる男がナイフで襲い掛かってきた。

 チェーンブレードの切れ味は知らないが、当たったら俺の装甲はバターのように切れるかもしれない。

 出来るだけ傷を付けたくはないので、細心の注意を払いながら回避する。


 横に振られた一撃を下へと回避。

 隙だらけのナイフ使いに真下から攻撃を仕掛けようとして――横へと放つ。


 すると、甲高い音を立てて何かが爆ぜる。

 恐らくは銃弾同士が当たった音であり、ナイフ使いは口笛を吹いていた。


《やるなぁ……なぁメイ。こいつは名付きじゃねぇのかよぉ?》

《知らない。手配書リストにも載ってないよ》

《てぇことはよぉ。お前……新人ニュービーかぁ?》

「……」


 俺は何故か話しかけてくる男に困惑した。

 だからこそ、通信も繋がず無言を貫いていた。

 そんな俺を笑いながら、ナイフ使いは鋭い連続攻撃を放つ。

 踊り子のようにその場で回転しながら、上中下段の変則攻撃を放ってきて。

 俺は軽く装甲を削られて冷や汗を流した。


 遠ざかればスナイパーが狙撃してきて、近づけばナイフで攻撃される。

 俺は少しばかり考えて――思いついた作戦を実行に移した。


 近づいてきた男を蹴りつけて、その反動で後ろへと下がる。

 そうして、海面へと一気に降下していった。

 相手も勿論接近してくるが関係ない。

 スナイパーは海面ギリギリで俺が方向転換するとでも思っているのだろう。

 冷静にタイミングを伺っているのが手に取るように分かる。


 

《WARNING!WARNING!WARNING!》


 

 計器の数字が減っていき高度が急激に下がっているのが分かる。


 

 ――――――――1000


 

 ――――――750


 

 ――――500


 

 ――200


 

「ここだ」 


 

 俺は両手のハンドキャノンを海面に向けて放つ。

 すると、嵐で荒れに荒れた海面から水しぶきが上がる。

 水の柱となったそれが俺の機体に掛かって、一緒に上がった”それ”を腰に格納していたサイドアームで掴んだ。

 そうして俺はそれを左へと投げ飛ばし、自分は右側から飛び出した。


 狙撃した音が微かに聞こえた。

 しかし、弾は俺の方向には飛んでいない。

 スナイパーは間違って、自分たちの仲間の”残骸”を撃った。


《――!!》


 スナイパーが驚き隙が出来た瞬間に、俺はそこ目掛けてハンドキャノンをしこたまぶち込んだ。

 木々が破壊されて、機体が大きく爆ぜたのを確認した。

 適当に予想を立てて撃ったが、無事に破壊できたようだ。

 俺は怒りに満ちた声で叫び声を上げるもう一機を見ながら、加速する。


 本来の推進力ではこちらの方が圧倒的に上で。

 ナイフ使いは思うように接近できずにいら立ちを露わにする。

 俺は悠々と中折れ式のハンドキャノンのシリンダーを排出して。

 サイドアームが掴んだ予備のシリンダーを装填した。

 

 そして、さっきのお返しとばかりに攻撃を開始する。


《くそ!! くそ!! くそがぁぁぁ!!》


 口でクソを垂れる男は、何とか俺の弾を避けて見せるが。

 援護が無くなった彼は、ゆっくりと手足を弾丸でもがれて。

 全身からバチバチとスパークを奏でながら、そのモノアイはチカチカと点滅する。

 最後はスラスターの不調なのか、背中から爆炎を上げながらゆっくりと墜落していった。

 単眼センサーの光は消えて、最後に奴は俺に恐ろしい事を言う。


《次は殺すッ!! 絶対に殺すッ!! 何処までもお前を追いかけてやらァ!!》

「……ぇ」


 水しぶきを上げながら、荒波の中に落ちた男。

 通信はぶつりと消えて、反応は完全にロストした。

 俺はあの男に恨みを持たれてしまったのかと焦る。

 本来であれば、出てきた敵を全員倒して拠点の中を物色するつもりだった。

 しかし、復活して戻ってきた奴らに復讐されるのを恐れて。

 俺は手に持つハンドキャノンで島中を破壊して、さっさと戦線を離脱した。


 大いに焦りながらも、依頼達成の証拠として黒い煙を上げる島全体を写して。

 それを依頼主に送ってから、返事も待たずにその場を後にした。


「……うぅ、受けなきゃ良かった」


 依頼を受けたことを後悔しながら、俺は涙目で逃げ帰った。

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