003:闇組織を殲滅せよ
初めての戦争を体験して、結構ガッツリと稼げた気がした。
依頼達成報酬分は、弾薬代とメンテナンス費用とエネルギー補充分を差し引いてかなりマイナスになっていて焦ったけど。
それなりの数の敵を倒して、相手のドロップアイテムを手に入れて換金したらそれなりのお金になった。
量産型っぽい白いメリウスたちのドロップアイテムはそれほど旨味はなく。
その後に弾を補給しようと誰もいなさそうな岩陰にいったら、何だかゴツイ機体がぞろぞろいて。
図体だけがデカく装甲が厚いだけのキャタピラ戦車擬きは結構狩りやすい上に、ドロップアイテムも高めに換金できた。
目立たないように黒よりの茶色に塗装されて、バカでかい砲門が二つあったなぁ。
ハンドキャノンでもそこまで大きなダメージが与えられず。
試しにキャタピラを攻撃すれば意外とあっさり行動不能になって。
その後は試し試しに色んな個所を撃ってみて、頭らしき部分から垂直に弾を撃ち込んだら破壊できると理解した。
狩れるだけ狩りまくって、お金になるアイテムを沢山回収して。
レーダーからぞろぞろと敵の大群が向かってきていると確認して慌てて逃げたのは良い思い出だ。
俺は仮想現実世界の自室にあるテーブルの前に胡坐を掻いて座っていた。
手には湯呑に入った温かい緑茶があって。
俺は淹れたてのお茶をちびちびと飲みながら、メッセージでゴウリキマルさんにお礼を言った。
内容は、素晴らしい機体を作ってくれてありがとうと。
それと、ドロップアイテムを高く買い取ってくれてありがとうといった感じだ。
ゴウリキマルさんはメカニックとしての知識だけでなく商人としての才能もあるようで。
相場よりも1.5倍ほど高い値段で俺のドロップアイテムを買い取ってくれた。
相場といっても、俺がネットで検索した情報だけど……恐らくは間違っていない筈だ。
「……返信が来た……礼には及ばない。もっと機体を速くしたいと思ったら、金を持って来い。待っている……職人みたいな人なのかな? 直接会ってないから、男か女かも分からないけど」
お茶をずるずると啜りながら、俺は少しだけゴウリキマルさんの容姿を想像した。
金金言ってるから、立派な髭の生えたマッチョマンか?
それとも、ひょひょろの体の眼鏡の似合う科学者風の男か?
どちらにせよ、男みたいな喋り方だし男だろう。
そんな事を考えながら、俺は湯呑を置く。
すると、ピロンと音がして新しい依頼が入っている事に気が付く。
「えっと――え? 一気に十件も入ってる。何で? それも指名オーダーじゃん」
何故か、俺を指名しての依頼が十件も入っていた。
まだ依頼は一件しかこなしておらず、戦場にもふらりと立ち寄っただけだ。
確かに何機かの量産型のメリウスは撃墜したけど……後はメ〇ルス〇イム的な何かだけだぞ?
報酬うまうまの案山子同然のメリウスを撃墜して名声が上がるのか。
理解し難い現状に頭を抱えながら、俺はどうしたものかと考えた。
取りあえず、依頼内容を見て決めようと思って詳細を開いて――俺は言葉を失った。
「……一対一の決闘。俺に勝ったら欲しいものをやる……子供かな? 後は……げっ、この依頼は俺が戦った国の将校からか。なになに、指定の座標にて黒岩商業連合組合の積み荷を強奪せよ……これは犯罪じゃないのか?」
タイマンの依頼に商会の積み荷の強奪。
碌な依頼ではなく俺はその二つは取りあえず拒否しておいた。
残った依頼も一つずつ見ていって、八件目までは特にこれといって旨味を感じなかった。
「護衛に護衛に護衛……何で俺に護衛させたいんだろ?」
守るのは得意な方ではなく、俺は何方かといえば攻めたい方だった。
だからこそ、もっと攻めっ気のある依頼を探してみて――最後の一つに目が留まる。
「……危険思想を持つ闇組織の支部の壊滅。闇組織の名前は”アンダーヘル”で、発見された支部は
俺は依頼の内容を見ながら、片手間で端末を操作する。
すると、アンダーヘルについて書かれていると思わしきブログを見つけた。
そのブログの内容は、アンダーヘルが働いてきただろう悪事をこれでもかと書いている。
何故か、意味深な言葉を最後にブログの更新は一か月前に途絶えていた。
「……違法パーツの売買に、偽装通貨の製造、誘拐に各国の将校への賄賂……ガチの犯罪集団じゃねぇか。何でアカウント削除されないんだ?」
仮想現実にも法律が存在していて、悪事を働けば捕まって檻に入れられる。
現実世界の犯罪者たちが、牢屋に空きが無いからと仮想現実世界に連れてこられることもある。
だからこそ、この世界でも犯罪は立派な悪として認識されている……筈なんだけど。
以前、開発責任者の生中継を見たことがある。
動画越しに見た彼の目は狂った人間のそれで。
彼曰く、現実での罪は罰せられるが、仮想現実での罪は完全には罰せられないらしい。
言い方はあれだけど、要するにそういうシステムを作っていないだけで。
もしも犯罪者が出てきたのなら、お前たちで勝手に捕まえるなり罰を与えるなりしろというものだ。
だからこそ、最初期の無法者の時代とは違って、今の仮想現実世界には牢屋も警察組織も存在している。
必要に応じてアカウントの開示もするらしいが、滅多な事が無い限りそれはしないようだ。
「……まぁあの開発責任者のおじさんは、例え自分が殺されても罰しないとか言ってたし……賢者と犯罪者は紙一重なのかな」
そんな事を考えながら、俺はこの依頼を受けるかどうかを考えた。
ブログによれば、別にリアルで殺しに来るような奴らではないらしい。
まぁこのブログを書いた人の言い分が全てとは限らないけど、そう簡単にリアルを暴かれる事はないだろう。
違法なパーツとかを売買しているらしいから、それなりの資金がありそうで。
この依頼を出した人の話では、現地で持って帰った品は合法なモノに限り貰っても良いらしい。
「闇組織はめちゃくちゃ高価な品を持っている印象だし――受けるか!」
俺は依頼を承認して、早速、一仕事しに向かった。
依頼の日時は特に決まっておらず。
俺の好きなタイミングで実行して良いらしい。
期限は受理した日から三日間までと定められているが、今から行くから問題ない。
「……あ、天気予報を見ておこう……お、現地は午後から嵐かぁ。ラッキー」
現在の時刻は午前十一時であり、嵐が来たタイミングで襲撃すれば勝てる気がした。
まぁ十五分前行動というのが社会人の基本であるから、俺は早めに東源国に行く。
ファストトラベル機能をまた使って、東源国の港街に行くことにした。
体が徐々に粒子に変わっていき、俺は目を閉じる。
次に目を開けた時には、潮風を肌で感じるのどかな港町の埠頭に立っていて。
カモメが鳴きながら飛んでいて、漁師らしき人たちが船で仕事に行っていた。
俺は早速、紫電を転送させようとして――ある事に気が付く。
「……こんなとこで出したら迷惑だよな……よし、あそこの小島に転送しよう」
キョロキョロと周りを見渡す。
そうして、前方に見えた小さな島に目を付けた。
あそこなら小屋とかも無いし、十五メートル級のメリウスを出しても騒がれないだろう。
泳いでいこうかと考えて、ちょいちょいと誰かに肩を叩かれた。
振り返れば坊主頭の小麦色に焼けた肌の外国人らしき人たちが立っている。
「フネ、ノルマスカ?」
「……あそこまで行けますか」
「OK! Come on!」
気さくな外国人のお兄さんたちについていく。
俺は優しい彼らに笑みを浮かべて――浮かんでいたスワンボートに目を点にした。
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