🍩

 「博士っ! 博士たいへんですよ! 博士! 博士っ!」


 三時半五分前に研究室を勇んでとびだした有能な助手は、ぶじ新作ドーナツを携えて帰還した。


 「あっ! インクがっ、倒れっ」


 派手に机の脚に躓いて。


 「博士、博士、博士!」

 「あぁ…論文が…」

 「博士、博士、博士!」


 インク浸しになった論文に肩を落とす博士をよそに、インク瓶を倒した張本人は大興奮で博士の白衣を引っ張っている。


 「たいへん! たいへんです博士! いそがないと!」

 「落ち着きなさい、キミ、とりあえず、」

 「ダメです博士!」

 季節限定新作ドーナツの効用はすごい。期待以上だ。 


 「このドーナツ、夕暮れに染まるさくら、てのを見ながらお茶しないと味がしなくなっちゃうんです! いそがないと!」

 「落ち着きなさい、まだ日没まで二時間、」

 「そんなこといって! 博士はいつものんびりしすぎです!」


 どうやらコロがうまくやってくれたようだ。


 「ぼくいそいでお茶の支度しますから! 博士もはやくお花見の準備をしてください!」


 *

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る