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それなのに、
「博士、ひょっとしてお花見なんかしてますね? してますね!」
などと青年は目くじらをたてるばかりだ。
(ひょっとしてもなにも、博士がお気に入りの一本桜は研究室から丸見えだ)
「しかもひとりで!」
て、地団駄を踏んでバケツをひっくり返している。
なにが気に食わないのか。
勤務時間は避けているつもりだ。
なにが彼のカンに触れたのか、と、考える。
彼はといえば、勤務中でもかまわず朝十時ぴったりにドーナツ屋さんにとびだしてゆくとゆうのに。
とにかく…彼が数学者だとゆうことを差し引いても…植生学の研究室にきたからには花見もできないなど示しがつかない。
相手は生き物だ。
愛でる気持ちがなくては適切な世話をしても応えてはくれない。
「…さて、どうしようか」
夕暮れのなかひとり、一本桜のした、朽ちかけたベンチに座り考える。(古いうえに先日の銃撃でかわいそうなことに穴だらけだ。彼は身を挺して桜を守ったのだ)
夕陽に透けてまうさくらの花びらを受けるように見上げる。
燃えるような空の色を映して、さくらも淡く朱を帯び美しい。
さくらに問うようにゆっくり、目を閉じる。
頬をなでる柔らかい春の風
暖かな暮れゆく陽
少し湿った春の匂い
夕食にいそぐ母子の笑い声
花びらが一枚、額をかすめる。
博士はゆっくり瞼をあけた。
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