十万円
11時、休日の父が階段から降りてきた。
「あ、おはよう。どうしたの急に」
「皆、帰っちゃったんだよ」
「あー」
髪はボサボサになることも無いほどになり、胸板は薄く、腕も細く、腹が少し出ている。
幼い頃の格好良かった父とはだいぶ変わってしまった気がする。でも、父は俺には出来ないことをやっている。
父の前の言葉は余りに重く、腹の一番下に溜まっている。
「あのな…手術しないか?」
手術。それから調べてみたところ安くて十万円程かかるらしいじゃないか。
十万円。それが親にとって、大した額なのか否かは分からない。ただ俺は、その十万円で手に入れたものを使うのか?なんなら、最近ではもはや恋愛に興味が薄れてきたのだ。
(その「薄れ」が今の浩也の状態と関係があるとは、考えなかった)
十万円が無駄になる。
十万円が無駄になる。
なぜなら俺は恋愛をする気がないから。
そして、そのさらに奥にある感情を浩也は見ようとしなかった。
恐怖感 未知への恐怖
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