第21話 戦場の覇者②
「政樹……こんなところで、なにしてんの?」
「は? いやいやいや、ここは普通、来てくれたのか……とか、信じてたよ……とか言って盛り上がるところだろ!? ヒーロー登場だぞ、ヒーロー」
「ごめん、見ての通り余裕がないんだ……。助けてくれない?」
「明らかに助けに来た人間に、助けてくれない? って、おかしいだろ。こういうときはほら、なんつーかさ、礼のひとつも言ってくれてよ、それに俺が無言で頷いて、敵をなぎ倒す! みたいな展開じゃねーの?」
「じゃあ、早くそうしてくれるとすごく助かる。ありがとう」
「んだよ、もー、調子狂うなぁ。まあ、やるけどよぉ」
ペルとの会話にも出てきた、志郎の友人にして師匠である転生者だ。
彼の持つ神性技能は『
頭目と思われるコボルトがまた吠える。コボルトたちが全員、政樹に向き直り、次のひと吠えで一斉に襲いかかった。
政樹はすべての剣撃をかいくぐる。仕掛けてきたひとりひとりに、軽く剣を合わせ、すれ違う。まるでふらりと散歩するような歩みだったが、接敵したコボルトはすべて血の海に沈んだ。
政樹に散々稽古をつけてもらった志郎でさえ、その程度にしか動きがわからない。他の者からすれば、歩いているだけで敵が斬られたように見えるだろう。
今持っているのは剣だが、彼はそんな技をあらゆる武器で、気楽に使うことができる。
手にすればどんな武器でも超達人級に使いこなし、圧倒的な戦闘力を発揮する。それが政樹が持つ神性技能『戦場の覇者』なのだ。
集団を一蹴されたコボルトたちは怯み、二の足を踏む。頭目が吠えて、弓隊が政樹に向けて一斉射を放つ。
政樹は身を低くして突進。
矢は一本も当たらなかった。政樹は矢の軌道をすべて見切り、その隙間に身を躍らせたのだ。
次の瞬間には三人のコボルトが倒れていた。その勢いのまま斬り進み、あっという間に弓隊を全滅させる。
焦ったように頭目がまた吠える。コボルトたちは、今度は志郎たちに狙いを定める。
「来るよ、志郎くん!」
女性が叫んで、志郎をかばうように抱きついてくる。
「慌てないで、もう危険はないよ」
あたたかくてやわらかい感触を名残惜しく思いつつ、彼女をやんわりと引き離す。
敵が志郎たちを傷つけることはない。政樹がひとりで、すべての攻撃から守り、コボルトたちを斬り殺していくからだ。
志郎はその姿を、技を、目に焼き付ける。
少しでも学び、より強くなるために。
やがて政樹は敵を殲滅して、剣を鞘に収めた。
「ほい、終わりっと」
息ひとつ上がっていない。怪我もないどころか、返り血の一滴さえ浴びていない。
志郎には真似できない。万全の状態なら、同数のコボルトを皆殺しにくらいできるが、無傷とはいかないだろう。返り血をも避け切るなんて、もってのほかだ。
政樹は何事もなかったかのように微笑む。
「で、志郎。その美人は誰だよ。紹介しろよ」
「……ありがとう、政樹。助かったよ」
「いや、礼はいいっていうか、そういう雰囲気は来たときに出して欲しかったっていうか……。それより美人、その美人紹介しろって」
「ごめん、眠い……」
「おいおい子供かっ! 寝るなら紹介してからにしろって」
「……実は、会ったばかりでおれもよく知らないんだ」
「へぇ……本当にそうか? お前が、会ったばかりの人間に命を預けられるものか?」
「政樹、なにが言いたいんだ?」
政樹はおどけた表情を鋭いものに変えた。
「命令が出てる。ラバン殺害と倉庫放火の犯人グループを捕縛しろってな。そしたら奇妙な状況でお前らに出会った。どうしてこうなった? なんで追われてた?」
政樹は、一度は鞘に納めた剣の柄に手をかける。
「犯人は、お前らなんじゃないのか」
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