第13話 転生者狩り④

 見れば、地面の石畳みが一部欠けている。まさか、リッドの股下をくぐらせた上に、地面で跳ね返らせて志郎に当てたとでもいうのか?


 正確すぎる。どれだけの訓練を積めばそんなことが……いや、訓練は必要ない。これは神性技能だ。


 狙いを定めた攻撃が、どんな軌道を通ることになっても、その過程でどんなに威力が落ちたとしても、最後には必ず命中する。ペルから聞いている神性技能の中に、そんなものがあった。


 その名は確か『百発百中ヒットメイカー』。


 捕捉されたままでは射られ続けるばかりだ。姿を隠さなければ。


 痛みを堪え、リッドを押し返そうと渾身の力を込める。


 そのとき、リッドの全身が発光する。神性技能発動の輝き。


「ぐあああ!?」


 次の瞬間、志郎はあまりの激痛に剣を落としてしまう。打ちつけられたような痛み。切り裂かれたような痛み。炎にさらされた痛み。それらが同時に全身を襲い、身動きが取れなくなる。


 リッドの蹴りをまともに食らって倒されてしまう。


 志郎の痛みの正体は、火傷に裂傷、それに打撲のようだ。リッドが神性技能を使った次の瞬間には、もう負傷していた。どんな攻撃をされたのか見えなかった。


 治療魔法を使うが、範囲が広くすぐに全快とはいきそうにない。


 見れば、リッドも治療魔法を自分にかけ始めている。


「やれやれ、やっと使えたぜ。早く使って治しときたかったんだよなぁ」


 志郎よりよほど熟練しているらしく、比較にならない早さで火傷や裂傷がきれいに治っていく。


 火傷に、裂傷? それにきっと、爆発で吹き飛ばされて打撲もあるはず……。志郎の体に発生した負傷と同じだ。


 志郎は理解する。これもペルから聞いたことがある。


 相手に自分の負傷をコピーする。神性技能『君の痛み我が痛みディアマイフレンド』だ。


 その神性技能を活かすために、リッドは今まで治療魔法を使わなかった。敵にダメージをコピーしたあとで、自分を魔法で治療すれば立場は完全に逆転する。はまれば強力な戦法だ。


 志郎は半身を起こして後ずさる。リッドは追ってくる。


 矢は飛んでこない。トドメを刺せるだろうに、なぜ?


 いや……射手が志郎を殺すつもりなら、もっと早くに決着が付いていたはずだ。神性技能『百発百中』なら頭を射抜くことも簡単だったろうし、矢に毒でも塗っていればもっと楽だったはずだ。


 リッドの蹴りが、治療する志郎の手を払う。魔法が中断される。


「さあて、質問タイムだ。お前の名前は? 誰の命令で動いてる?」


「命令?」


「あのラバンを殺すなんて、ひとりでできるわけがねえ。誰がボスだ? どんな組織なんだ? 答えろよ。答えたら、怪我を治してやるし、なんならそのあとの面倒を見てやってもいい。組織から裏切り者扱いされるだろうしよ」


 納得する。志郎を殺さないのは、情報を聞き出すためだ。


 確かにラバンの持っていた『神秘の草花』は強力な神性技能だ。無効化できる神性技能がなければ、まず正攻法では勝てない。それだけの力を持った転生者を、たったひとりで殺せるわけがないと思うのは、ごく自然なことだろう。


 今すぐ志郎を殺さないというのなら問題ない。こいつらは殺せる。


「面倒を見てくれるのか……。それは、いいかもしれないな」


 志郎は懐に手を入れようとする。


「待て! 怪しい動きをしたら矢が飛んでくるぜ。俺の剣も刺さる。神性技能も使うなよ」


「ならお前が取ればいい。おれの能力の源がある。降参のしるしに渡すよ」


「能力の源?」


 リッドは剣を突きつけつつ、志郎の懐をまさぐる。やがて石版を見つけ、取り上げる。


「なんだこりゃ。スマホっぽい石?」


「石版だよ。ペルストーンといって、女神様からもらった神器なんだ」


「へぇ。で、こいつはどんな力を持ってるんだ?」


「お前を無力化できる」


「なに!?」


 ――剥奪アブソーブ、『君の痛み我が痛み』!


 リッドの体が輝き、その光がペルストーンに吸収される。


 ――『君の痛み我が痛み』、発動イグニッション


「ぐあああああ!? なに!? なんで!?」


 リッドの全身に再び火傷と裂傷が生じる。苦しみながら地面に膝をつく。剣もペルストーンも手からこぼれる。


 志郎はすかさず剣を拾い、全身の痛みをこらえて突きを放つ。


「がっ、ひゅ……っ」


 空気が抜けるようなリッドの声。


 刃はリッドの首を貫いた。


「女神ペルシュナの名において、神罰を代行する」

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