第12話 転生者狩り③
その瞬間、轟音と熱風が吹き荒れた。
足を怪我したごろつきと、近くにいたオークが爆発に巻き込まれて火だるまになる。
「なんだ!? てめえ、なんか仕掛けてやがったな!」
もちろん仕掛けておいた。
さっき火をつけた荷物の近くに、神性技能『神秘の草花』で作り出した火薬を仕掛けておいた。小さな火が時間をかけて大きくなり、このタイミングで火薬に引火したのだ。
本当は麻痺毒でも大量に生成して、倉庫内の敵をすべて無力化したかった。しかし、一度の発動で生成できる量には限度がある。神性技能に使用制限のある志郎がそれをやろうとすれば、確実に充電切れを起こして死ぬ。そこで爆薬という次善策を選んだのだ。
爆発で発生した炎がべつの荷物に引火して、そこでも爆発。
辺り一面、あっという間に炎に包まれる。
「なに考えてんだ、てめえ! 自分も焼け死ぬかもしれねえんだぞ! こんなに燃やしたんじゃ、逃げられなくなるのもわかんねえのか!?」
「わかってるさ。お前たちを、逃がさない」
「く、狂ってんのかよ!」
リッドがオークを伴い逃げていく。志郎はあえて追わない。
炎の中を悠然と歩き、逃げ遅れた者や右往左往している者に剣を突き立て、丁寧にトドメを刺していく。
やがて通用口。
何人ものごろつきが集まっていたが、炎に熱された錠を開けるのに四苦八苦している。
その周辺の荷物にも炎がおよび、また爆発。炎はごろつきを飲み込み、通用口を塞ぐ。
「門だ! 搬入用の門を開けろ! 急げ、焼け死ぬぞ!」
搬入口となっている観音開きの大きな門には、それに相応しい大きな閂がかけられている。金属で補強された木製の物で、すでに燃え始めているが、燃え尽きるまで待っていられるわけがない。リッドは開門作業の先頭に立って、生き残ったオークやごろつきに命令する。
その様子を、志郎は比較的炎の勢いの弱い位置から観察する。
リッドたちはいよいよ閂を外し、門の錠前も外そうと鍵を差し込む。
そのタイミングで志郎は、最後の火薬を彼らの背後の炎に投げ込んだ。
激しい爆発が、門ごとリッドたちを吹き飛ばす。
累々と横たわるオークやごろつきを踏み越えて、志郎は倉庫から歩み出る。
外を警備していたごろつきがやってくる気配はない。おそらく危険を察して逃げたのだ。あるいは中の様子を窺っていたところで爆発に巻き込まれた者もいるかもしれない。
「あ、ぐ……、そうか、よ……ラバンを殺ったのは、てめえ、か……」
リッドはうつ伏せに倒れている。火傷と裂傷はかなりあるようだが、まだ死んではいない。オークやごろつきの体が壁になって、爆発の直撃を受けなかったのだろう。
それでいい。死んでしまっては神性技能は回収できない。
とはいえ、相手の神性技能が明らかでない以上、迂闊に近づくわけにはいかない。
まずは体の自由を奪う。射程範囲ぎりぎりから、霧状の麻痺毒を生成して吸わせてやろう。
志郎はリッドに向けて手を伸ばす。
――『
志郎の手が輝き、薬物を生成するその刹那。
冷たい突風が腕を貫いた。燃えるような痛みが沸き上がる。生成途中の薬物が霧散する。
「ぐっ、う!?」
矢だった。志郎の右腕に矢が刺さったのだ。
射手がいる!
志郎は咄嗟に身をかがめ、すぐそばにあった木箱に身を隠す。
矢をすぐ引き抜き、治療魔法をかける。矢の飛んできた方向に目を向け、射手の姿を探す。
すでに移動したのか、見つからない。
一瞬の思考。射手が先か、リッドが先か。リッドだ。再び神性技能を使おうと、志郎は狙いを定める。
が、いない。倒れていた場所からリッドが移動している。
どこだ? 視線を周囲に巡らせるより早く、リッドは志郎の死角から飛び出してきた。
剣の一撃をかろうじて剣で弾く。が、体勢が悪い。足で踏ん張りきれず、物陰から転がり出てしまう。
直後に肩に衝撃。また矢だ。痛みの叫びを噛み殺し、射手の位置を確認。
見えた。焼き討ちした倉庫の隣。べつの倉庫の屋上にいた。もう移動を始めている。距離がありすぎる。やはり今はあいつに対処できない。
リッドが迫る。怪我のためか動きは鈍い。剣撃を受け流し、側面に回り込む。これで射手はリッドが邪魔で射てないはず。
だが矢は放たれた。
志郎の脇腹に、下から突き上げるような角度で刺さる。
志郎が怯んだその隙に、リッドが踏み込んでくる。志郎はその斬撃を剣で受け止めるが、押し返すことができない。肩と脇腹の負傷が痛む。
それより、今のはなんだ? 矢が下から飛んでくるなんて……。
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