第11話 転生者狩り②
万全を期すならここで一旦戻り、やつの素性や神性技能をペルに聞くべきだが、オークとなにを話しているのかが気になる。
石板をしまいつつ、聞き耳を立てる。
男は剣や斧の収められた箱を検分し終えたところだった。
「質のいい武器だ。取引は成立だが、わざわざあんたらが出張ることもなかったんじゃないか?」
「一応、用心棒も兼ねている。取引の現場にラバンを殺ったやつらが来ないとも限らんからな」
「そりゃどうも。毎度毎度、ありがとよ。邪魔者も消してくれるしな」
「邪魔者を? なんのことだ。我々は好きに人間を襲っているだけだ。それがたまたま、お前たちの邪魔者だっただけのこと」
「そうだな、そういうことにしてるんだった。しかし、気になってたんだが、あんたら魔族が人間の金でなにやってんだ?」
「お前たちと同じだ。資源に食料、労働力、知識、技術……。買い付けるには人間を相手にするのが効率がいい。それに、まだ力のない転生者どもの面倒も見てやらねばならない。サルーシ教への献金もある。人間の金は、あればあるだけいい」
「魔族が信心深いとはね。俺なら教会に献金なんぞしないがな」
「したほうが利口だ。少なくともアレスは利口だったから、この街の支配者にもなれた」
「ふぅん、サルーシ様のお導きで、ってか。いや、あんたらはサタルシアと呼ぶんだったか。確か、魔王も同じ名前だったよな。神様から名前をもらったのか?」
「いや、我らの王こそが神だ」
「へぇー、それは知らなかった。お笑いだな。人間はみんな、魔王とも知らずにサルーシを崇めてるわけかよ。たいしたペテンだ」
「そのために同胞は血を流している。サルーシ教徒にわざとやられてみせてな。そのお陰で、お前たちは随分といい目を見てきたはずだ」
「感謝してるぜ。ペルシュナなんかに味方しても苦労しかねえもんな。そりゃあ、甘い汁が吸えるほうになびくってもんだ」
「お前の同胞を苦しめ、搾り取った甘い汁だ。心は痛まないのか」
「同胞なんかじゃねえよ。俺にとっちゃ異世界だからな。ここの人間がどうなろうと、正直どうでもいい」
「その物言い、気に入った」
志郎は身を隠したまま、動きが取れなかった。下手に動くと声が出てしまいそうだった。
サルーシ教はこの世界を牛耳っている。そのサルーシの正体が魔族の神だというなら、つまり、この世界はもう、魔族に支配されているということじゃないのか。人間がみんな知らないだけで……。
魔族がサルーシ教徒を襲わないのも、サルーシ教の戦士が魔族を容易く撃退できるのも、サルーシには強い加護があると信じさせるための自作自演なのだ。そして悪徳転生者たちは、魔族と癒着している。
あまりにもひどい。裏があるとは思っていたが、これほどとは思わなかった。
だが……。
志郎は深呼吸を数回するだけでもう落ち着いていた。
だが、それがどうした?
やるべきことに変わりはないじゃないか。
もともと悪徳転生者は皆殺しにするつもりだ。魔族も同様、必ず絶滅させる。
ただサルーシ教の正体が魔族で、悪徳転生者と繋がっていることが明確になっただけ。
志郎の方針には、なにひとつも変更はない。
まずはこの麻薬組織を、魔族ごと叩き潰す。
魔族の最終的な目的はわからないが、やつらの強化に使われるであろう資金を、むざむざと持ち帰らせるわけにはいかない。今すぐやる必要がある。
志郎は姿を隠したまま再び動く。倉庫内の全域を探索、把握し、準備を終える。
充電は残り六八%。
右手には剣。左手には火のついたろうそく皿。
志郎は倉庫の荷物のひとつに火を放り込み、その足でごろつきたちの生活スペースへ踏み込む。
「なんだてめえ!」
いきりたったごろつきが次々に立ち上がる。ざっと一〇人。それぞれ武器を持って向かってくる。
志郎は意に介さず突き進む。
「女神ペルシュナの名において、神罰を代行する」
威勢よく突っかかってきた最初のひとりを、一太刀で斬り伏せる。
息巻いていたごろつきが怯み、動きを止める。志郎は集団の中心に身を躍らせた。
横一文字になぎ払ってひとり。返す刃でもうひとり。背後からの一撃を、相手の腕を切り落としてかわし、続けて首も落とす。
生ぬるい返り血をたっぷり浴びた姿で、志郎は次の標的を探す。
ごろつきたちは震え上がる。
「なんだこいつ!? だ、ダメだ! 俺たちじゃダメだ!」
志郎は背中を見せて逃げるごろつきのひとりに剣を投げつける。
直撃せず、足に刺さった。訓練不足だ。
床に落ちていた他の剣を拾う。足を怪我した者以外はみんな逃げ終えている。代わりに数人のオークと、例の傭兵風の男が姿を現した。
「強いな、あんた。転生者か。やめろやめろ、戦ったってつまんねえぞ。お互い痛い目見るだけだ。ここの連中に恨みがあるなら思う存分やってくれていいが、そのあとで俺たちは話し合おうぜ。お友達になろうぜ、なあ?」
男は剣も抜かず、笑顔を向けてきている。
志郎は男を睨みつける。
「……お前、名前は?」
「リッド・バークレイで通ってる。ここのボスみたいなもんさ」
「本名は?」
「それは勘弁しろよ。日本の名前じゃ、ファンタジーな世界じゃ悪目立ちする」
「じゃあいい。死ね、リッド」
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