第10話 転生者狩り①

 志郎が目指すのは街の南西、波止場がある地区。


 遠回りになるが、防壁の隙間から街の外へ出てから向かう。


 一般庶民の姿で、目立つような動きをしない。もちろん武器も持たない。今回に限らず、武器は携帯すると目立つ。必要なときに現地調達するほうが都合がいい。


 志郎は誰に怪しまれることなく、波止場地区の防壁の門を通って中に入ることができた。港付近の倉庫街を軽く偵察しつつ、動きやすい夜を待つ。


 神力の充電は一時間で一%減っていくので待ち時間は痛いが、下手に動き回って怪しまれるよりはマシだ。


 酒場で食事を兼ねて聞き耳を立てていると、噂話が聞こえてくる。


「おい、聞いたか? あのラバンが死んだんだってよ」


「ああ、殺されたとかって噂、マジなのか?」


「らしいぜ。最近、衛兵とかぴりぴりしてるし、犯人探しもしてるらしいな」


「医薬品はどうなる? ラバンがいなきゃ質は悪くなるし、量も確保できないだろ。また魔族と戦にでもなったら……」


「知らねえよ。そんときはそんときだ。誰か代わりでも探してくるしかねえだろ」


 街の衛兵が警戒している様子は志郎も確認している。転生者を殺せる犯人を探しているのなら、同等の力を持つ転生者が出張っているだろう。おそらくラバンの息がかかっていた場所には、警護として転生者がいるはず。


 好都合だ。


 神性技能をまた回収できる。あわよくばアレス・ホーネットに繋がる情報が得られるかもしれない。


 今回の目標は、ラバンが関与していた麻薬組織を叩き潰すこと。ラバンから聞き出した拠点は、波止場にある大きな倉庫のひとつ。ラバンが『神秘の草花』で作り出した麻薬は、そこに集積されている。その他の違法取引の場にも利用されているそうだ。


 石造りなので外から建物を焼き討ちにはできない。中に侵入する必要がある。


 深夜になって、志郎は目的の倉庫に赴いた。


 船で運んできた大荷物を運び入れるための大きな門があり、その右側に通用口がある。その前で武装したごろつきが警備しており、さらに数人が周辺を巡回している。


 一見すると厳重に見えるが、所詮はごろつきの集まり。巡回警備するはずの何人かは雑談しているし、またべつの者は眠そうにあくびを繰り返している。


 志郎は苦労もなく通用口に接近し、そこに立っていたごろつきを背後から拘束した。


 口を塞ぎ、従わなければ殺すと脅せば、簡単に通用口の鍵を開けて中に入れてくれる。すぐ気絶させて物陰に隠し、通用口の鍵を閉める。志郎は物陰に潜みながら周囲の様子を確認する。


 中は無人ではなかった。


 明かりが灯されており、話し声も聞こえる。


 倉庫内の一角に生活スペースが作られており、そこで何人もが机に座っている。その周囲には数人の警護。雑談しているようだ。


「で、その野郎はよ、ヤク買う金をガキから巻き上げてたんだけどよ、搾りきっちまってスカンピンになっちまったのさ」


「そりゃガキのシノギなんざ、スリやら引ったくり程度のモンだろ。足りるわきゃねえや」


「だからよ、あの野郎、ガキにウリやらせようとしてよ、何人か掘って仕込んだんだと」


「そりゃヤりたかっただけなんじゃねーの。んで、どうなった?」


「ガキに刺されて死んだ。犯したときに無茶したらしくてな、そのガキ、ケツ穴が裂けて締まらなくなってよ、クソが垂れ流しになっちまう体になっちまったんだと。で、恨みの一撃よ」


「ひゃー、マヌケだなそいつ。で、そのガキは牢獄行きか?」


「いやいや、今じゃ立派なお客様よ。ちょいとヤクをサービスしたらどハマりしてよ、ケツでくわえて口でしゃぶって荒稼ぎよ。お願いしますお願いしますぅ~つって、ケツからブリブリ白いの出しながら、稼いだ金を貢いでくれてるぜ」


「ひゃははっ、そりゃあ大した上客だ」


「んな苦労までして買ってくれるっつーんだからよ、いい商売だぜこりゃあよ。やめらんねえよなぁ、ひひひひひっ!」


 志郎は、気絶させたごろつきから奪った剣を鞘から抜いた。


 こいつらから血祭りにあげてやる。


 しかし物陰から歩み出ようとしたとき、ありえない物が見えて、志郎は慌てて身を隠す。


 上向いた鼻に、鋭く尖った耳、歯並びの悪い牙。


 オーク? いや、まさか、なぜこんなところに?


 さっき身を隠していた位置からは見えなかった。志郎は積み上げられた荷物に登り、彼らの頭上から様子を窺う。


 確かにオークだ。そしてもうひとり。ごろつきとは違って、身なりの整った傭兵風の男がいる。オークと対等に会話しているようだ。


 志郎は懐から石板を取り出して、男の方向に向けてみる。石板がわずかに震えだした。


 この反応、間違いない。転生者だ。

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