第2話 神罰の代行者②
志郎が女神ペルシュナから与えられた神性技能だ。
本来は「なにを食べても大丈夫になる」という旅を補助する目的で作られた神性技能なのだが、どんな毒を摂取しても平気でいられるという万能な毒耐性は、むしろ実戦にこそ向いている。
麻痺毒を無効化した志郎は、すぐさまラバンの懐へ踏み込む。振るった棍棒がラバンの左側頭部を強打。怯んだラバンはしかし、二撃目をかわして志郎から距離を取る。さすがに、かつては英雄だっただけはある。
「毒耐性かよ! ならてめえも転生者だろ! 仲間になんてことしやがる!」
「おれは仲間じゃない」
志郎は意識を集中して充電率を確認する。残り五三%。『鋼鉄の胃袋』を装着してから、毎秒一%ずつ減っている。この充電率がゼロになれば、志郎は死ぬ。普通の転生者と違って、志郎には神性技能の使用制限がある。
決着は急がねばならない。
志郎は再び棍棒を打ち込む。二度、三度と回避されるが壁際にまでは追い詰めた。逃げ場はもうない。
ラバンはしかし、不敵な笑みを浮かべる。
「勝てるつもりか? あの子も死ぬぜ。こいつは致死性の毒だ」
志郎はラバンの両手のひらが淡く輝いているのに気づいた。いつからだ? わからない。すでに毒は部屋中に散布されたに違いない。
志郎は一歩引き、牽制に棍棒を投げつける。ラバンに背を向け、少女が無防備に眠るベッドに駆け寄る。
志郎は懐から石版を取り出した。手のひらに収まるサイズの、ちょうどスマートフォンのような形状。その石版を少女の胸元に置き、念じる。
――
志郎の毒耐性が解除され、充電の消耗が三七%で停止する。
――『鋼鉄の胃袋』、
石版が輝いて、その光が少女の体内に吸収されていくように消える。
これでこの神性技能は少女へ移植された。毒で殺されることはない。その代わり、志郎にはもう使えない。呼吸は止めたが、致死性の毒が散布された中で何秒持つか。
ラバンに向き直ろうとした刹那、なにかが志郎の首をきつく締め上げる。肌触りは布。ラバンが背後から志郎の首に引っ掛けたのだ。
「く……っ、がっ!」
掴んで引き離そうとするができない。すさまじい力だ。薬でドーピングしたに違いない。
ラバンは更に態勢を変えた。志郎と背中合わせになり、志郎の首を締めたまま背負い込むように志郎の体を持ち上げる。首の拘束に、体重分の力が加えられる。
「クソが! くたばれ、くたばりやがれ! 俺の楽しみを邪魔した罰だ! てめえは磔にして鳥の餌だ! 骨になるまで晒し者にしてやる!」
視界が白ばむ。窒息するより、意識を失うほうが早い。
だが幸運だった。もし志郎にもう毒耐性がないと知られていたら、逃げ回りつつ毒を撒き散らされて終わりだった。
今の状態ならラバンは逃げない。少しばかり体を捻って腕を伸ばせば、ラバンの腹部にだって手が届く。
志郎はその脇腹のぜい肉を思い切り掴んだ。
――
ぜい肉が弾け、血飛沫が上がる。
ラバンは吹っ飛び、壁に激突。苦痛に呻きながら、床をのたうち回る。
志郎の充電率は一気に二二%まで減少。一五%分の神力の爆発。
これは神性技能ではない。転生した志郎の肉体についてきた機能のひとつだ。肉体の生命を維持し、神性技能を扱うための力――『神力』を、物理的なエネルギーとして放出するだけの機能。
どれだけの神力を消費するかは志郎の意思で調節できるが、肝心の威力は大したことがない。文字通り命を削って放つ攻撃なのに、今回は命を一五%も削ったというのに、ラバンは元気に悶え苦しんでいる。
殺傷力を重視するなら、少し修行して初歩的な攻撃魔法でも覚えたほうがよほど効果的だが、今回はこれでいい。
首の拘束から解放された志郎は、床に這いつくばって慎重に呼吸をする。
どうやら散布された毒はすでに霧散したようだ。ラバン自身にも危険な行為だったから濃度を薄くしていたのだろう。
首をさすりながら立ち上がり、床に転がった棍棒を拾い上げる。
ラバンは脇腹を抑えながら『神秘の草花』を発動させたようだ。輝く手を腹部に当てると、苦悶の表情が和らいでいく。荒くなった呼吸も整い、出血が止まっていく。
その顔面に、志郎は全力で棍棒を振り下ろす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます