第3話 神罰の代行者③

「ぶぎゃッ!」


 棍棒の突起が眼球を貫き、額も割った。鼻の骨も折れただろう。


「ひぃい……っ!」


 身を守ろうとラバンは両腕で防御姿勢を取る。手のひらに神性技能の輝きが宿る。


 その腕にもう一撃。骨を砕いた手応え。


「うあああ!」


 ラバンの手から光が消える。


 その隙に志郎は、少女の胸元に置いてきた石版を手に取り、ラバンの体に押し当てる。


 ――剥奪アブソーブ、『神秘の草花』。


 ラバンの全身が発光し、その光が石版に吸収されて消える。


 これでこの神性技能は志郎のものだ。


 他の転生者たちと違って、志郎は神性技能を他者から剥奪することも、与えることもできる。それは女神ペルシュナから与えられた特別な役目のためだ。


 凶行に走った転生者から神性技能を回収し、他の心正しい者に再配布する。


 そういう意味では、もうラバンに用はない。


 だがもうひとつ。神性技能の回収や再配布と同等か、それ以上に大切な役目がある。次はそれを果たさねばならない。


 ――『神秘の草花』、発動イグニッション


 充電率五%と引き換えに、麻痺毒が生成される。


 毎秒一%消費しながら効果を発揮する装着タイプとは違い、こちらは発動一回につき五%消費するタイプの神性技能だ。残りは一七%。


 麻痺毒をラバンに吸わせる。首から下の自由だけを奪う毒だ。痛覚は残っているし、意識もハッキリしていて会話もできる。


「あ、ぐっ。くそっ! なんでだ、なんで体が動かねぇ……ッ! 神性技能も、つ、使えねえ。な、なにをしやがった!?」


 志郎はラバンの側頭部を、サッカーボールのように蹴り上げる。ぎゃっ、と短い悲鳴が漏れた。


「なにしやが……あぎゃあぁあッ!?」


 言葉の途中で、志郎は折れた腕を踏みつけた。


 続けて、顔面に靴底を叩き込む。一度ではなく、二度。全体重をかけて。


 潰れた鼻から血が溢れ、口からは折れた歯がこぼれ落ちた。


 さらに棍棒を振り上げる。


「や、やめ――やめてくれぇ! なんでもする! なんでもするから、もうやめてくれよぉ!」


 志郎は無視してラバンの右膝に棍棒を叩きつける。


「ぎゃああああああ!」


 骨の砕ける音がして、膝のあたりが血で染まっていく。膝の皿を割った。もう歩けない。


 ラバンの顔は苦痛と恐怖に歪み、両目からはボロボロと涙が溢れ出す。片一方の涙には血が混じっていた。


「あぅあぁ……っ、もう、やめ、て……っ。やめて、ください……。た、助けてください……。お願いします……お願い、します……!」


「教えてもらいたいことがある。お前が麻薬で稼いだ金は、どこに流れてる?」


「そ、それは……。――ぎああっ!」


 ラバンが言い淀んだ瞬間、志郎の靴先がラバンの脇腹に食い込んだ。一度は止血された傷口が開き、再び血が床を汚す。


「おれは怒ってるんだ。早く言わないと、なにをしでかすかわからない」


「言う! 言うよぉ! アレスだ! 金はアレスに流れてる!」


「お前のボスか?」


「そうだよ! みんな知ってる、あのアレス・ホーネットだよ! この街の領主、アレス・ホーネット!」


 その名を聞いて、志郎に驚きはなかった。納得があった。

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