第29話 前世の罪は
「つまりおれが殺したから、こいつの罪は浄化されたと言いたいんですか」
「そのように考えることもできる。少なくとも今の命を、前世の罪で裁くことも、非難することも、してはいけないように思う」
「それは前世の記憶も人格もない場合でしょう。こいつは転生した今でも、殺人鬼のままですよ。現に一度殺したあとも殺人鬼だった。二度目で変わるとは思えません」
「本当にそうなのかは、本人次第だ。このまま人を殺さずに過ごせたなら、殺人鬼のままだったとは言えない」
「ですが、誰かが殺されてから、殺人鬼だったとわかっても遅いんです」
「君がそばにいれば、そうならないように導くこともできるはずだ。彼女は君の命を救ったし、共に死線をくぐり抜けた。信じてみる価値はあると思わないか」
一理あるが、鏡子のそうした行動自体が芝居だったと考えることもできる。
「私、志郎くんが嫌だって言うなら、殺さないよ。だって、そうしないと一緒にいられなくなっちゃうもん」
志郎は鏡子を一瞥してから、ペルに目を向ける。
「……ペルはどう思う?」
「わたしにも、わかりません。ただ、複数回の転生で、人格というか魂自体に変化はあるかもしれません」
「そうか」と言ってから、志郎はあらためて鏡子に顔を向けた。「わかった。神父さんに免じて、お前の判断はしばらく様子を見てからにする」
鏡子の顔がぱっと明るくなる。
「やったぁ、ありがとう!」
「ったく、あんたら揃いも揃って、志郎を危険に晒したいのかよ」
不機嫌そうに政樹がため息をつく。
「おれが決めたことなんだ。政樹、文句ならおれに言ってくれ」
「言っていいのか?」
「やめなさい、ふたりとも。また喧嘩になってしまうじゃないか」
レジス神父がまた間に入ってくれる。
「それで志郎くんは、これからどうするんだい?」
「ひとまずは何日か休んで体力を取り戻そうと思います」
また政樹がため息をつく。
「悠長だな。俺の名前を出したから今は平気だろうが、ここ、またすぐに狙われるぞ」
「それはわかってるけど、すぐには離れられない事情があるんだ」
神力の充電のため。それに。
「……ペルちゃんか」
政樹の一言に、ペルが俯く。
「まあ、体弱そうだし、外に出るのも怖がってるみたいだしな。けどよ……」
「そこは私がなんとか匿うよ。私にできるのはせいぜいそれくらいだろうからね」
レジス神父にそう言ってもらえて、これまで通りではあるものの、志郎は少し安心する。
「おれもできるだけ早くアレスを倒してこの街を解放しますよ。そうすれば逃げ隠れしなくても良くなる。迷惑もかけなくて済む」
「俺は楽天的すぎると思うがな」
「政樹、君が手伝ってくれれば、そうでもないと思う」
「冗談言うな。負け戦には乗らねーっつったろ」
「情報提供してもらうだけでもダメかい?」
「ああ、ダメだ。下手すりゃ、こうして会って話すこともできなくなるんだ。勘弁しろよ」
「やっぱりそうか」
「心配してやるだけ、感謝して欲しいくらいだぜ」
「感謝ならしてるよ。今日も教会を守ってくれてありがとう。おれを捕まえずにいてくれて、ありがとう。君には助けられてばかりだ。なんだかんだ言っても、誰より頼りになる友達だと思ってる」
すると政樹は目を丸くしたあと、照れくさそうに背を向ける。
「ったく。人の気も知らねーでよ……。俺は帰るぜ。見送りはいらねーからな」
さっさと出て行く政樹を見送ったあと、レジス神父も「雨漏りを直す仕事が残っているから」と部屋から出て行った。
残される志郎とペル、それに鏡子。
「ペル、こいつから神性技能を剥奪することはできるのかい?」
「すみません、それはできないんです。わたしが授けたものではないので……」
「そっか、わかった。気にしないで」
志郎はぽんぽんとペルの頭を撫でてあげてから、鏡子のほうを見やる。
「おれはこいつと話があるから、ペルは神父さんの手伝いをしてあげて欲しい」
「えっ、でも……」
ペルは少しばかりためらったが、すぐになにかを察して頷いてくれた。
「わかりました。話が済んだら、呼んでくださいね」
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