第28話 友達と仲間と

「でもよ、でも、なんでお前がそこまでするんだよ。せっかくの第二の人生じゃねえか。魔族だからなんだよ。お前ほど強けりゃ、サルーシ教でも高い地位が約束される。もっと楽しく贅沢に暮らすことだってできる。この教会が気に入ってるなら、権力を振りかざして守ればいい。なんでそれじゃダメで、あえて危険な真似をするんだよ!」


「理不尽に人を殺していくようなやつらの仲間になるなんてごめんだよ。おれも、おれの家族も理不尽に殺されたんだ。同じような理不尽に苦しめられているのを、放ってはおけない」


「それでお前が死んじまったら、なんにもならねえって言ってんだよ、バカヤロウ! 実際お前、俺がいなきゃ死んでただろ! ペルちゃんを残して! お前が死んだら、お前にしか助けられない人も助からねえんだよ!」


「だったらどうしろって言うんだ! 他にどんな手段がある!?」


「だからサルーシ教に入れよ! そしたら俺だって助けてやれる! お前を捕まえなくてもよくなる!」


「絶対に嫌だ! 君こそ、よく平気でそんなことが言えるな。恥ずかしくないのか!」


「平気なものかよ! 俺がどんな気持ちでサルーシに――!」


 そっと、手のひらが志郎と政樹の間にかざされる。レジス神父の手だった。


 政樹はハッとして言葉を止める。志郎も、自分で思う以上に熱くなっていたことを自覚する。


「つまり政樹くんは、志郎くんが心配で仕方がないわけだ」


 柔らかな口調でレジス神父に言われて、政樹は片手で頭を抱えた。


「まあ、立場は違えど、ダチなんで……」


「んん~、尊い」


 鏡子が感慨深そうに茶々を入れた。みんな無視した。


「志郎くん、君はいずれ仲間ができると言ったが、私としてはずっと前から君の仲間のつもりだ。サルーシと魔族を倒すため、共に戦わせて欲しい」


「はいはい、私も~。私も志郎くんと一緒にサルーシと戦うよー」


 志郎は鏡子を睨みつける。


「神父さんの申し出はありがたいですけど……鏡子、お前はサルーシの転生者だろう。裏切って味方になるなんて言葉、信じられると思うか」


「ペルシュナの転生者たちも、いっぱい裏切ってるでしょ。サルーシを裏切る人が出てきても不思議じゃないと思うな」


「理屈ではな。だがお前は信用できない」


「そんなぁ~」


「ところで志郎くん、転生者というのはなんだい? 聞き慣れない言葉なのだが」


 レジス神父の質問に、志郎はペルと視線を交わした。ペルは頷く。


 志郎は、自分の能力や、ペルの正体については伏せつつ、転生者と神性技能についてを神父に説明した。


「そうか……。女神様の力で、べつの世界から転生を……。君たちのあの強さは、そういうことだったのか」


「今まで黙っていてすみません。鏡子に聞かせたくなくて、伏せているところもあるんですけれど……」


「いや、サルーシの手の者となれば、警戒するのは当たり前だろう。けれど君の態度はそれだけが理由には思えない。志郎くん、彼女は君に、なにをしたんだい?」


「こいつは……おれと、おれの家族を惨殺した殺人鬼なんです。こっちに転生してからも、口封じに仲間を殺したり、無関係な人を刺したりしています」


「ちなみに私、どっちもその直後に志郎くんに殺されました。それで志郎くんの魅力に気づいて、サルーシじゃなくて志郎くんに付こうって決めたんです」


 レジス神父は、同情と悲痛さが入り混じった表情を見せる。そして、重たそうにゆっくりと口を開く。


「にわかには信じがたいことだが……理解はしたよ。しかし志郎くん、ひどく言いづらいことなのだが、君が眠っている間、彼女は殺人鬼めいた動きを見せなかったし、心から君を心配していた。それに君を見る目は確かに、恋をしている女性のものに思える」


「……なにが、言いたいんです?」


「彼女は、まだ殺人鬼なのだろうか?」


「言っている意味がわかりません」


「重罪を償わせる方法として死刑があるならば、それで死んだ人間は、罪を来世に引き継ぐことはないのではないだろうか」

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