第27話 事情説明

 志郎はレジス神父と政樹を、自分たちの部屋に上げた。


「うわ、なんでこの人、床で寝てんだ?」


 放置したままの鏡子に驚く政樹。


「なんか麻痺して体に力が入らないの~。お構いなく~」


「そういうわけにもいかないでしょう。志郎くんも、恩人になんて扱いをしてるんだ」


 レジス神父が彼女を持ち上げてベッドへ寝かせる。


「神父さんも、そいつの素性を知ったらおれの気持ちがわかりますよ」


 ペルとのふたり部屋だが、五人も入るとさすがに窮屈だった。政樹とレジス神父は立ったまま。ペルはベッドに腰かける。志郎も、病み上がりだからと勧められるままに椅子に座った。


 口火を切ったのは、政樹だった。


「これ、お前のだったよな?」


 政樹が軽く放り投げた小さな石板を、志郎はかろうじてキャッチする。


 ペルストーンだ。間違いない。


「そいつは例の倉庫放火犯の遺留品ってことになってた。お前が大事にしていた石板だと思ってな、俺の権限で持ち出してきた」


「……よく似てるけど、違うよ」


 すると政樹は腰の剣に手をかけた。


「ならその石、ぶった斬っても文句はねえな?」


 志郎はなにも言えない。ただ、ペルストーンを渡すまいと握りしめる。


 ため息ひとつついて、政樹は剣から手を離す。


「言い逃れはできねえよ。お前を見た衛兵は何人もいる。話を聞いたが、外見の特徴はまさにお前だった。この前は返事が聞けなかったが、今度はちゃんと答えてもらうぜ。ラバンや麻薬組織を殺ったのは、志郎、お前だな?」


「……だったら、どうするんだい?」


「これも前に言ったが、俺たちには犯人を捕まえろって命令が出てる」


「おれを、本気で、捕まえるつもりだってこと?」


 志郎はまっすぐに、親友の目を見て問いかけた。


 政樹は頷かず、少しばかり目を逸らした。


「……事情くらいは聞かせろよ。なんで、あんなことをしたんだ」


「あいつらは、悪党だった」


「悪いやつだからって殺しちまうのは短絡的すぎねえか」


「それに値することをしていたんだ」


「おいおい、あれくらいの悪党、いくらでもいるんだぞ。同類を見つけたらまたやるのか? んなわきゃねえよな、きりがねえもんな?」


「…………」


 政樹はきっと肯定して欲しかったのだろう。だが志郎は肯定も否定も口にしなかった。


 つまりは、否定だ。


「マジかよ……。やめとけよ。あいつらの仲間に殺されるぞ。今ならまだ、俺が口を利けば、なんとかなる」


「政樹、その口ぶりだと君は知ってるんだね。やつらが、アレスの命令で組織的に犯罪に手を染めていることを。なのに、どうして黙っていられるんだ」


「俺たちの敵は、あくまで魔族だからだよ。いくら悪党になっても、俺たちは同類じゃねえか。それにやつらにゃ、魔族との戦いで功績もある。少しくらい甘い汁を吸ったって、いいんじゃねえのか」


「いいわけがない。それで理不尽に苦しめられて、理不尽に死んでいく人がいる。人を苦しめるのが、魔族から人間に変わっただけ……いや、権力を持ってる分、よっぽどたちが悪い。そもそもあいつらに功績なんかない」


「どういう意味だ?」


「サルーシ教の神は、魔族の王なんだよ。そして魔族と癒着してるのがアレスやラバンたちだ。やつらと魔族は、自作自演でサルーシ教を布教してる。魔族を寄せ付けない加護がある、って見せかけてね」


「……そんなバカな」


「事実なんだ」


「事実なら余計にバカだ。お前、そいつらと戦うってことは、ほとんど世界全部を敵に回すってことじゃねえかよ。勝てるわけがない」


「勝つさ。やつらを倒していけば、ペルシュナ教は力を取り戻す。いずれ仲間もできる。そしたら勝機も見えてくる」


「言っておくが……俺をアテにはするなよ。負け戦に乗るつもりはない」


「わかってる。そう言うと思ってた」

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