屑れ愛
敷座くろな
第一話 帰宅
私の名前は鍋田 蕾。もう少しで中学3年生になる。
今日も1日学校を終えて帰宅しようと自転車に跨る。ゆっくりと漕ぎ始めると異様に重い。今日は一段と疲れた。生徒会選挙が近付いているせいで仕事が山積みなのだった。
「ふぅ……」
一息吐いて下り坂に差し掛かる。私が生徒会に立候補したのには訳があった。
私立推薦入試に有利になろうと必死だったからである。勉学も得意でなく、特技がある訳でもなく、これといった成果も残していない私は何かしら履歴書に書けるものを探した結果、辿り着いたのが生徒会だったのだ。
今日も部活が終わった後1人で教室に居残り、演説の原稿を先生と書いていた。長々とするか分からない目標を書いた原稿は自分で書いたにも関わらず反吐が出るような出来。それでも先生からは好評だった。
「……何が良いのか分かんない」
スカートがばたばたと風でめくれ上がるのも気にせず坂を下りきる。
今の現代社会はSNSの普及により様々な所から監視の目が向けられ害のない”普通”でいることを強要、また望まれている。けれどもSNSで1部の尖ったY○uTuberやらが注目を浴び、若者から支持され羨望の眼差しを向けられているのも事実である。
この世間は何を求めているのだろうか。
この世間で自分はどうあるべきなのだろうか。
”普通”か”尖り”か。
どちらの方が自分を引き立ててくれるのだろう。
ここ最近生徒会選挙で自分の売り出し方を模索しているせいかそんな事ばかり頭によぎる。かといって答えが出た訳でもない。こんなんじゃ”ライバルのあいつ”には勝てっこない。思わず噛んでいた唇を解き演説原稿を口にした。
「…私の名前は鍋田 蕾です。私はこの学校の生徒会執行部になって、この学校を変えたいと思っています……」
そこまで言って勝手に口が閉じる。いつもそうだ。今書いている原稿もここから先が進まない。
”この学校を変えたい”
あんまりにも抽象的すぎやしないか。かといって具体的にしすぎてもそれを達成しなくてはならない責任感が強まるだけである。今の若者は理屈を優先する傾向にありこんな抽象的な意見を選んでくれるとは思えない。無論。こんな考えも私の勝手な偏見に過ぎないのだが。
私はどんな風に学校を変えたいのだろう。
こんな私でもどんな風になら学校を変えられるのだろう。
そんなことを考えながらも家に着いた。自転車を降りて弟の自転車の横に自分の自転車を停める。
2つ下の弟は来年度中学生になる。その為新しく買って貰った自転車は自信満々といった様子で銀色に輝いていた。それとは対象的に私の自転車は泥が付きかつての輝きを失っている。
あぁ、まるで私じゃないか。
中学生になって、自分の在り方に悩んで何も分からなくなった私の思考のように私の自転車は泥でくすんでいる。それを横目で見ながら私は窮屈なヘルメットを取ってカゴに入れた。ぱたぱたと制服の汚れを叩いてから玄関を開ける。
「ただいま~」
廊下に響く私の声。それに返されるであろう母の言葉も待たずに私は自室に転がり込んだ。なぜならそこでは私のスマホが私のことを待っているから。
屑れ愛 敷座くろな @kurona_shikiza
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。屑れ愛の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます