第30話 年を越して

 あれから、二人は互いに抱きしめ合い、自分の「好き」を相手に触れることで伝え合った。一度風呂に入ったのにもう一度風呂に入り、今度は服を着てリビングに戻ってくる。


「そう言えば、いつの間にか年越してたな」


 時計を見ると、深夜一時を回っていた。


「こんな年越し初めてだよ」


 湊は笑った。肇もこんな事をして年越すなんてな、と笑う。


「あけましておめでとう、肇」

「今年もよろしくな、湊」


 お互いに新年の挨拶を交わすと、軽くキスをした。何だかラブラブカップルだな、と肇は思って顔が熱くなる。


「寝るか」


 肇は自室へ行こうとした。けれど湊は動かない。どうした? と顔を覗くと、彼は顔を赤らめて視線を逸らした。


「何で今頃照れてるんだよ……って、ちょっと?」


 ぐい、と腕を引かれ、彼の腕の中に収まる。はあ、と切なげにため息をついた湊は、腕に力を込めた。


「湊?」

「肇……身体は平気?」

「ま、まあ……。なあ、ホントに何? ちゃんと言えっていつも言ってるだろ」


 すると湊は、肇の耳に唇を付け、囁いた。その言葉に肇はぶわっと全身が熱くなり、身体が固まる。


「お、おま、それなら風呂入る前に言えよっ」

「だって……」


 湊はそう言いながら、肇の頭を撫でた。


「ごめん、やっぱりスマートにしてたいじゃん? 好きな子の前では」


 でもやっぱり無理だった、と湊は首に噛み付いてきた。思わず悲鳴を上げると、湊は口を離し、舌打ちする。


「アイツもこんな気持ちなのかな……」


 普段からは想像できない湊の舌打ちに、肇はドキッとした。アイツって誰だよ、と聞くと今は話したくない、と再びそこに唇を寄せる。


「やっぱり、俺は跡を付けるの嫌だなぁ」

「……っ、さっきから何言ってんだよっ」


 湊は苦笑して、また後で話すね、と再び愛撫を始めた。やってきた快感の波に、肇は身を委ねる。


(もう一回って……顔赤くして言われたら……)


 可愛いって思ってしまった。肇は、結構、だいぶ、かなり湊の事が好きなようだと他人事のように思う。


 何だかんだで彼の事を許してしまうのは、そういう事だろう。


「湊……湊……」


 上擦った声で呼ぶと、湊は手を止めて見てくる。顔が熱いけど言わずにはいられなかった。


「オレ、お前の顔と声、結構好きかも……」

「……結局外見?」


 湊が口を尖らせる。肇は違う、と訂正した。


「お前の……愛想笑いじゃなく、ニコニコしてるの好き……」


 初めは嫌いからから始まった湊との出会い。湊の人となりを知って、彼も人並みに悩んだり怒ったりする事を知って。人に合わせることで生きてきた不器用な彼が愛おしい、と肇はぎゅっと抱き締めた。


「……っ、そんな事言われたら、また肇のこと好きにしたくなる」


 湊は冗談交じりに言う。でも、何だって良いんだ、と彼は笑った。


「好きな人と触れ合うって、良いなって。深くまで交わらなくても、触れ合ってるだけで心が温かくなるね」

「……うん」


 肇は頷くと、もう何度目かの湊のキスを受け入れた。


 ◇◇


 数時間後、二人は笑いながらベッドに入る。シングルベッドだし湊の分の布団も用意したけれど、この方が温かいと布団の中で抱きしめ合った。


「明日、純一たちと初詣行こうって」

「オッケー。……なあ」


 肇は先程湊が言っていた、アイツとは誰の事か聞いてみる。すると湊はああ、と苦笑した。


「恋人にやたら跡を付けたがるヤツがいてね」

「だから、誰だよ?」

「…………司」


 はあ? と肇は声を上げる。湊は、俺にはその心境、分からないなぁ、と呟いた。


 でも、と肇は思う。想いが爆発して噛んでしまうのは、言葉が上手く話せない年頃の子供と一緒だと。


「……司って、いつから無口なんだ?」

「純一が言うには、小さい頃から無口無表情だったらしいよ?」


 なるほど、と肇は納得した。もしかしたら肇の読みは当たりかもしれない。


「司は、案外子供なのかも」


 今度、純一にでも聞いてみたら? と肇は言うと、気が向いたらね、と湊は営業スマイルだ。どうやら聞く気は無いらしい。


 ふあーあ、と肇はあくびをした。さすがに疲れたし眠たい。


「眠い。寝るぞ」

「うん、おやすみ」


 お互いキスをすると、目を閉じる。何だか甘々カップルだな、と肇は顔を赤くしたが、すぐに眠りに落ちた。

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