君との約束

とろり。

君との約束


 中学に入学してサッカー部に入部したマナブ。虚弱な体質で病気になりがちだったので、体を鍛えようと入部した。


 一年生の時は、技術よりも体づくりと顧問の先生は口をうるさくしていた。走り込みや筋トレ、食事などとあらゆる面で指導された。真夏だろうが真冬だろうが休みはない。何度も退部しようと思ったが、両親の応援もあり、マナブは結局退部届を出さなかった。


 二年生。

 一年間の体づくりで少し丈夫になったマナブは、レギュラーにはなれないものの、顧問から期待を寄せられていた。

 技術面でもマネージャーに教わりながら、スキルアップをしていった。


「そう! しっかりボールを止めてからパス! 上手い! 上手いよ! マナブ!」


 二年の春、隣町から引っ越してきたハルは、熱心にマナブを技術面でサポートしていた。


 休憩時間、マナブとハルはいつも一緒だった。

 話をしていくうちにマナブは、ハルが以前の中学校の女子サッカー部にいた事、そこで足をケガした事、親の転勤、といろいろ聞いた。逆にハルは、マナブは体が弱かった事、病気になりがちだった事、といろんなことを聞いた。


「ちょっと触っていい?」

「え?」

「筋肉だよ、筋肉」

「え? あ、ああ、別にいいよ」

 ハルはマナブの腕や脚の筋肉を触る。そして、微笑みながら言った。

「やっぱ男の子だね。いい筋肉だよ」

「そ、そう? でもまあ一年間体づくりに励んだからかな」

「頑張ったね。いいなあ男の子は」

「なんで?」

「女の子って体が柔らかくできてるんだよ。筋肉もやろうと思わなければ、付いてこない。私、ジュニアサッカーの大会で代表選手に選ばれて、でも、練習でケガしちゃって……」

「……」

「女の子の体って弱くできてるんだよ。だからさ、男の子の丈夫な体ってなんか憧れるんだよ」

「……」

「ねえ、もう一回触っていい?」

 マナブは照れながらも、ハルが自分の筋肉に触れることは嫌ではなかった。少し寂しそうな笑顔でハルはしばらく、マナブの筋肉を触っていた。


 ピーッ!!!


 笛が鳴る。休憩は終わり、練習の時間。立ち上がり、グラウンドに向かうマナブをハルは引き止めた。

「約束しよ?」

「約束?」

「県大会で優勝すること」

 マナブは一瞬戸惑ったが、頷いた。


 三年の夏。マナブはレギュラーになり、地区大会を突破した。

 県大会優勝に向けて、体づくりを怠らない。技術面の向上も怠らない。それはハルとの約束のため――


 チャリン♪


 メールはハルからのものだった。

『いよいよ明日だね。今日は体を休めて明日からの一戦一戦を大事に戦っていこ。

今までの努力は無駄じゃない。筋肉は裏切らない(笑)』

 ハルの冗談まじりのメールに少し緊張がほぐれた。


 県大会当日。

 ピッチ脇でウォーミングアップをするマナブを、ハルはベンチから見つめていた。

 試合開始まであと少し。

 マナブは仲間とともにピッチに入っていく。そして深く深呼吸をして、夏の青空を見上げた。



/Fin/


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君との約束 とろり。 @towanosakura

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