修羅…31

 ここのところ歳さんといることが多くなってきた。その影響なのか私事で新選組のことに無頓着に過ごしていたことに気づかれた。新選組も御多分に漏れず派閥が出来ていていた。

芹沢鴨…この鴨さん達の一派と近藤さん達の勢力争いが強くなっていた。


仲間内で争うのはどうかと思うけど、最近の鴨さん達の乱暴狼藉は目に余る。それを口実に近藤さん達は主権を握ろうとしている。大店を脅して資金調達をすることは良いことじゃない。

新選組の名を汚し市中に悪印象を与えてしまう。


それを責めようとする近藤さんや歳さん。この2人も問題がないわけじゃない。

最近はすっかり武士になれた気になっているらしい。

でも元々武家の心得を知らずに育った2人は、立ち居振る舞いや武家のあるべき姿を知らない。

そのことを四角四面な性格の山南さんが指摘することが多く、近藤さんや歳さんとの確執が表面化しつつあった。


このままでは収まらないだろうと感じていた頃、芹沢鴨さん一派に関して会津から正式に通達が来た。近藤さん達は公に認められたことで本格的に芹沢一派の一掃を計画し始めた。


鴨さんは対外的なことで評判を落としてしまっているので会津の反応も仕方ないと思う。

でも、無抵抗な浪士を斬ったことを信じてくれなかった近藤さん達に対しての不信は変わらない。

俺はどちらが局長にふさわしいのか選べる立場にはない。ただ状況に合わせて…

というより俺の立場では流れに任せるしかなかった。


鴨さん一派の一掃も終わり、局長の座を脅かされることもなくなって近藤さん達は安堵した様だった。近藤さんと歳さんの感じ方は少し違うようだった。

近藤さんはもう一端の武士になれたつもりになって不遜な態度になってきていた。江戸の頃から知ってる左之さんや永倉さん達も辟易していた。少し前に千人同心の井上の源さんの兄・松五郎さんが来阪した時に近藤さんを諫めて貰うようにお願いしたけど、兄さんの言葉も近藤さんには響かなかった。江戸の頃とは別人の様に偉そうぶった近藤勇という人物が出来上がっていた。


この頃から昔馴染みであっても、近藤さんと呼ぶことを禁じた。一般の隊士よりも江戸からの知り合いに対しての態度の方が厳しく俺も近藤先生と呼ばなければならない。

そうした近藤さんの態度が原因で江戸からの知り合いとは気づかぬうちに隔たりが出来ていた。


ことが済んで江戸からの仲間たちが集まると、局長は本当に近藤先生で良かったのかと語ることすらあった。


他方で歳さんは変わらない部分もあったが新選組を守り維持することを意識し始めた。きっと頭の中では組織の統率をどうすればいいのかを考えていたのだと思う。その一環で隊士の前では「歳さん」と呼ばせることを禁じた。近藤さん…もとい近藤先生とは微妙に違う感覚で昔からの呼び方を禁じた。


そして、江戸からの仲間の中でも近藤先生や歳さんとは一線を画していた山南さんを総長に祭り上げた。これも権力闘争、いや自分達がやりやすくするための布石。

山南さんから武士とは何ぞや?と言わせない様に、異議を唱えさせないため。

権力闘争なんざ興味ないからどうでもいい。今の俺は隊務をこなしさえすればいい。

ただそれだけだった。


新選組の体制も決まり、日々の隊務も順調に過ぎていくようになった頃あの事件が起きる。

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