修羅…30
歳さんと久しぶりに長い時間話をした気分だった。
肌を合わせるというより、業務連絡の会話をしている様な感覚だった。
1人の部屋に戻る。1人に慣れていないわけではないけれど
昼にすることなく部屋にいると息が詰まる。
気を紛らわせるために壬生寺にいって石の階段に座ってみる。
寺を行き来する人が思ったより多いことに今更ながら気づいた。
人がいれば寂しくないというのは違う。
多くの人がいる中で1人を感じる時ほど孤独を感じる。
秀頴と会うまでは、特に白川屋敷にいる頃は誰一人助けてくれる人はいなかった。
孤独なのが当たり前で、人から忌み嫌われる存在でしかなかった。
それから比べれば今は良い方なんだろうけど。
一度幸せを知ってしまうと元には戻れない。
まして簡単に人を好きになれない俺が気持ちを向けてくれたとしても
その気持ちに応えられるとは思えない。
別れたのはついこの前。秀頴はまだ京にいるかもしれない…。
空は続いていると、江戸から京に来る時に秀頴に言い続けた。
俺達はずっと繋がっていると…。
繋がっている…、そう繋がっている筈だったんだ。
思い出すと涙が出る。人前とはいえ知り人もいないことは幸いだ。
にーたん!
不意に子供の声がした。
横を見ると八木家のぼっちゃんが俺の横にいた。
ぼっちゃん、どうしたの?
そういう、にーちゃんことどうしたん?泣いてるん?
あ、バレちゃんったか。悲しいことがあってね。
どうしたの、聞いてあげるよ。
そうか、優しいねぇ。
うん!ゆうくん優しい子なんやもん。
そうだね、じゃ聞いてくれるかい?
いいよ!
大好きな人と会っちゃいけないって言われたんだ。
大好きな人ってお母さん?
ん、大事なお友達。
そうなんや。お母さんと会えへんくらい悲しいのん?
そうだね。悲しいね。
そうなんか、でも元気だしや~。
そう言ってゆうくんは屋敷の方に走り去って行った。
子供の無心な気持ちに癒されて屯所に戻った。
しばらくして、部屋の外から声がした。
沖田さん、八木の奥様がお越しです。
八木の奥さん?なんだろう?
良く分からないまま玄関へ出ていくと、何やら持った八木の奥様がいた。
沖田さん、さっきうちの子と話してはりましたやろ?
あの子がな元気出して欲しいって言うたから買うてきたんやけど…。
余計なことどしたかなぁ?
と菓子折りを差し出してくれた。
ご丁寧にありがとうございます。息子さんにもお礼を伝えて下さい。
ご厚意を有難く受け取って部屋に戻った。
菓子の包みを見ると、壬生に来た頃秀頴に送るために吟味しいてた菓子だった。
そして、京に来た秀頴を一番に案内して大喜びしてくれた店の練り切りだった。
甘味は苦手な俺だが、一口食べる。
あの時2人で闊歩したこと、久ぶりに会えた喜びやお互いの想いが蘇る。
秀頴… 秀頴。
涙で菓子は見えなくなっていた。
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