隔つ闇…26
三門で待つことしばし。人影が見える。やっとお出ましかと思って目をやると、そこには見れた人の姿が…。
「ひでさと…?」
驚いた。まさかの偶然にどうしていいのか戸惑う。今なら誰もいない。せめて本音だけでも伝えられまいかと思う気持ちは、態度となって秀頴の方に手を伸ばそうとしていた。
「そ、、宗さん?」
その瞬間、秀頴の後方から見たくもない三人組の影が見えた。
奴等は俺達が会っている様にみせかけて難癖をつけようって魂胆らしい。奴等の思惑通りにさせてはいけない。まして秀頴に腹を切らせることだけはあってはならない。
そう思った瞬間、思わず言葉が出ていた。
「こっちに来るな!! ただの偶然だ。お前さんとは縁を切ったんだ。もう二度と会いたくなんかねぇ。あっちへ行け!気安く俺に近づくんじゃねぇ!!」
秀頴は真偽を確かめたいのか俺の言葉にかまわず近づいてくる。
「俺とは住む世界が違ってるっていったろう!近寄るんじゃねぇや!」
俺達の様子を伺っていた三人はニヤニヤしながら近づいてきて秀頴に聞こえないように
小声で話してくる。
「おや、新選組の沖田君じゃないか。会わないって話でしたよねぇ」
「それに、たかが新選組の隊長の癖に旗本の伊庭殿に失敬な態度だな!」
「ちっと名前が売れてきて勘違いしてるんじゃないのか? そんなに武士になりたい…
あぁっと失礼。沖田君は元々武士だったねぇ」
「それなら尚の事、身分の違いを知って貰わないとねぇ」
「それは大変失礼致しました」三人に頭を下げた。
「俺達じゃない。謝るのは伊庭殿に対してだろう!」
「それに、あれだけの無礼をはたらいて、その程度の謝り方でいいと思ってるのかい?」
「では、どのように?」
「決まってるだろう! 手をついて謝るんだよ。ほら…」
奴等に手を引っばられ、なし崩しに土下座する姿勢になっていた。
「ほら、謝れ!!」
「伊庭殿、先程は大変失礼仕りました」
謝っている所にまた横槍が入る。
「なぁ沖田さんや、先日もお約束しましたよね。迷惑をかけない為に、二度と会わない様にするって。そうしなけりゃ伊庭殿にも塁が及ぶって言いましたよねぇ?まさか忘れて会おうとしてたんじゃないでしょうなぁ?」
自分達が仕組んでおいて、まるでこっちが密会でもしている様な言い草に呆れる。でも、何よりも秀頴を巻き込んではいけない。逡巡しているところに肩に足を置かれ強い力で押さえつけられた。
「ほら、沖田さん。身分を越えての無礼はいけませんなぁ。きちんと謝っておかないと後でどんなことになりますかねぇ」
「大変申し訳ございません。今後一切ご迷惑をおかけすることはありませんのでご容赦下されたくく…」
言葉の途中で肩を押さえつけていた足で蹴られ石畳に強く顔を打ち付けた。
「いいざまだな。所詮、新選組は地を這って生きるのが分相応ってもんよ。それを偉そうに京の都を闊歩されちゃ困るんだよ!」
「身の程を思い知れ!!」
奴等に蹴られながら、秀頴に向かって含みを込めて一言。
「伊庭殿、ご容赦を」
その言葉に呼応して
「あいわかった」
「良かったなぁ。伊庭殿から許しがでて」
あざけりの声。嘲笑。それでも足りないのか奴等は脇腹を蹴って
「野良犬はさっさと立ち去って貰おうか」と凄んでいる。何の苦労もなく武家の家に育った者なら屈辱に耐えかねることなのかもしれないが俺は慣れっこだった。何よりも奴等の矛先が自分にあるならどんなことでも平気だった。
奴等に蔑まれたとはいえ、己の誠は変わらないのだから堂々とゆったりとした態度で立ち上がり、振り向かずに三門を後に歩き始めた。
同じ様にその場を立ち去ろうとする秀頴に奴等が近づいていく。秀頴に何かしないかと心配だが俺が近づくわけにもいかず、背中に未練を残したまま足早に去るしかなかった。
腹立たしいこと。奴等に言われて土下座したことなど何のことはない。踏みつけられたことも大したことではない。幼い頃に白河藩邸で経験したことに比べれば、あの程度のことは大したことではない。傷つくことでもなかった。腹立たしいこと、傷ついて辛いと思うことは、またも秀頴に思ってもいない酷い言葉を浴びせてしまったこと。
一番大事な人にひどい言葉を浴びせた。それも2回目だ。二度も傷つける必要などないのに。白河藩邸で言われ続けていた通り、やはり俺は疫病神なのかもしれない。
好いた相手をこんなことに巻き込む自分に腹が立つ。情けなく、悔しい。先日のことで秀頴との縁は切るしかなかった、けれどまだどこかで望みを持っていた自分がいたことに気づいた。でももう今日この日を以って、秀頴とは二度と会えないと確信した。
人としての心を取り戻すきっかけをくれた秀頴を失い、人を斬ることが生業になってしまった俺には修羅に生きるしか道を見出すことは出来なかった。
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