修羅に生きる

修羅…27

心の支えを失くした。自分の心もどこかへ消えそうだ。

信頼していた人が変わっていく。

その中で変わらない人もいるのが救いだが修羅から抜ける手立てはない。

いや、反対に修羅に身を置くことの方が楽で心地よいとも思える。

一番隊で最初に斬り込み先陣を走るのは剣術使いとしては快感でもある。


ただ、師匠の周斎先生が見たらお嘆きになるだろう。

そして皆伝も何もかもお取り上げになるかもしれない。

何しろ今の俺の剣には心がないから…。


誰かが

「沖田さんはどうして人を斬るのですか。」と聞いてきたが

「近藤先生に斬れって言われましたから。」と答えた。

ただ近藤先生に従ってるだけの人形の様に見えるんだろう。

それは本来の俺とは違っているが、あながち間違ってもいない。

何も考えない、心もない人形でいたい。その方が楽に生きられる。

唯一子供達と遊んでる時や、寄ってくる猫と遊んでいる時は心が和む。

その時だけは…。


時間を持て余さない様に積極的に隊務に励むことにした。

勤勉な隊士。

それでいい。自室に帰れば飲むばかりで何もしない。

自堕落な生活。部屋の中もその生活を示すように

散乱した本や書きかけの文、酒をこぼした時のしみ、そのままだ。


それをみて左之さんは

「おい総司!お前の部屋にぺんぺん草が生えてるぞ!」と言って笑ってた。

そうだねぇぺんぺん草が生えても…

いやいやぺんぺん草がある方が癒しがあっていいかもしれない。


塞ぎ込む時ばかりでなく、他の隊士… 特にうちの一番隊の連中を連れて

祇園や島原に繰り出すことも多々あった。

日頃の労を労うことや、お互いの交流を深めて実戦の時に生かすと

理由をつけて飲み歩く。

そんな時に客(不逞浪士ふていろうし)に出会うと

腕試しの如く人を斬ることを楽しむ様に斬り結ぶ。

どんどんと鬼に近づいてきている様だ。


心を鬼に?

などと言いながら、今の俺は何をしている?


ふと手元に目線を落とす…。

文机の上にある紙に書かれた見慣れた文字…


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秀頴様


すまない。すまない。本当に申し訳ない。

あの時の言葉は本心ではない。言われされた言葉だ。

俺の本心は会いたくないのではない。

新選組の体面を重んじて会わせられないのだと伝えて欲しかった。


でも、今更言っても詮無いことだね。

こんな奴でごめんよ、秀頴。

心の底では今でも、いや未来永劫途切れることなく

秀頴のことを好いている。これだけは変わらない。

でももう伝えてはいけないこと。伝えられなくなってしまった気持ち。


出会ってしまったことで秀頴の運命を狂わせたのは俺。

すまない秀頴。何もかも俺が悪いんだ。

小さい頃から白川屋敷で言われ続けていた通り

俺は疫病神。俺と関わるとろくなことがないことを忘れていた。

勝手に本気で惚れて翻弄してしまってすまない。


全部俺のせい。恨んでくれてもいい。

いや、恨んでくれ、憎んでくれ。

心底嫌いになってくれていいんだ。許さずにいてくれ。


会えなくなっても、変わらず好いていること

言葉に出せずとも、変わらず好いていること。

ただ1つこれだけは赦して欲しい。


総司



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どうしようもない未練たらしい文を書いている自分が情けない。

鬼になれもしない。未練たらしい男。

江戸にいる頃、名家の世継ぎの秀頴に縁談がでたら

潔く身を引くのだと言っていたのに…

秀頴に嫌われる言葉で本気で嫌れて未練など残さぬ様にして

別れる覚悟はしていると言っていたのに…


そんな覚悟はまるで出来てやしない自分にうんざりする。


もう生きていても仕方ない。死ねるものなら死にたいと思って

斬り結んでみても負けず嫌いの性格が邪魔をする。

自分より下手な奴の手にかかって死にたくない。

剣術使いの誇りは忘れていないらしい。


不意に部屋の襖が開いた。


おい、総司。何をしてるんだ?


歳さん?


最近のお前はどうかしてる。


どうかしてるだぁ?

そうさせたのは、どこのどなたでしたっけ?


総司!


お説教なら聞く耳はないぜ!



ふん…。歳さんが今更何をしに、何を言いにきたっていうんだ?

最初からケンカ腰の歳さんとの会話が始まった。


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