隔つ闇…25
どんな方法を考えても秀頴との復縁は出来そうにない。何か方法がないかと思いを巡らせても俺が新選組にいる限り望みはないのだろう。まして秀頴にひどい言葉で別れを切り出したのは俺だ。今は納得がいかないかもしれないが、時が経てば俺のことも忘れて日々を暮らせる様になるかもしれない。いや、会えないのなら俺を忘れて違う人と幸せに暮らせば…。そう思えればいいのに未練がましい性格はそれを考えただけで悲鳴をあげる。
無抵抗の者を斬ったことに関しては何故か誰も責めはしない。濡れ衣は明らかだからだろうか。もうそんなことはどうでも良かった。黙っていても辛い時や悩んでいる時の察しがつくほどの理解者は秀頴以外にない。周斎先生もよく判って下さっていたが、年齢の近さや一緒に遊んだり共有した喜怒哀楽は秀頴の方がより濃厚だ。
身内はなく姉からは見放され、誰からも見向きもされなかったいじけた性格の俺を、正面から全て受け止めてくれたのは秀頴だった…。 秀頴を失うことは俺の心の安らぐ場所を失ったことと同じ。
京に来たのは間違いだったのか…。
暇にしていると延々とこのことを逡巡するばかりだ。何か仕事をしている方が楽に思えた。歳さんのところに仕事を割振って貰おうかと思って部屋を出た時、新しい隊士が立っていた。俺の部屋は各々の隊長の部屋の並びの一番奥にある。新人の隊士が容易に入れる場所ではない。不審に思って話しかけてみた。
「おや、どうしたんですか? 誰かに用事でも?」
「あ、、、あの、お、、お、、沖田さん!!」
「はい?」
「巡回していたらこんな文を貰って…」
「ん? つけ文自慢なら友達とやってくださいね」
「あ、、、そうじゃなくて沖田さんに渡してくれと」
「俺に?」
「はい」
「不審な奴だったかぃ?」
「それが、、、身なりも話し方もきちんとした方で…」
「判った。確かに受け取ったよ」
文の内容は、俺に対する呼び出しで刻限と場所をしていた。
もちろん秀頴の文字ではない。
不審に思って、その文を持って歳さんの部屋へ行った。
「で、この文どうしたらいいですかね?副長」
「総司…」
「はい、何でしょう?」
「ここにいる時はいつも通り歳さんと呼べ。気持ち悪くていけねぇや」
「承知致しました。歳さん副長… ぷっ」
自分が言った言葉に笑ってしまった。
「おい!自分で言って自分で笑うな。それでこの文なんだが、怪しいとは思うが、ちょいと見てきてくれないか?」
「一体誰からなんでしょうね」
「この字から察すると…」
「どうやら心当たりがある様ですね?」
「ん… 確証はない。ただ…」
「ただ?」
「この間のあの一件絡みかもしれん」
「ふーん。心当たりがあるんだ。この間の一件なら俺にとっちゃ最悪のことしかないんだけど、それでも行かせる気?」
「注意は必要だが気にならないか?」
「要するに行けと?俺がどんなことになっても行けと?」
「この前の奴ら相手にお前がそう簡単にやられる訳ないだろう? 」
「さぁてね…。相手の出方次第でしょ。また抵抗してないのに斬ったって濡れ衣きせられて今度こそ切腹なんてことになったりしてね」
「大丈夫だ。監察をつけるから濡れ衣はない。何かあればこっちで処理してやる。安心していってこい」
「判りました。出来るだけ穏便に済ませるつもりですが、斬ってしまったら宜しく」
あの連中からの呼び出しなら何が起きてもおかしくない。奴等が何をしたいのか気になっていた。きっと不快な結末になるだろうと思うが、それも覚悟で行くしかないだろう。
それに歳さんの態度もおかしい。明らかに何か含みがある呼び出しと判っていて行かせるってことは歳さんも一枚噛んでるってことか?
先日の一件以来、近藤さんも歳さんも江戸の頃の様に信じられる存在ではなくなってしまっていた。
どのみち助け舟はない様だ。秀頴との縁が切れてしまったこの世に未練はない。理不尽なことに我慢することはないかもしれない。無駄死にしたいとは思わないが己の矜持に従ってみるしかないようだ。
刻限に合わせて指定された場所、知恩院へ行く。少し早めに着いた。壮大な三門が近づいてくる。切り結ぶ様なことにはなるまいが、どう出るつもりなのか…。
気構えをして三門に向かった。
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