再会…15

秀頴も俺も時間がある時は屯所を出て、一晩ゆっくりできる座敷に行くことにしている。用向きがないからと屯所で会っている時に限って、緊急の御用改めが入る。

せっかくの逢瀬は断ち切られ中途半端な気持ちのまま用向きに出ることになる。

落ち着かず逢瀬もままならない。秀頴とゆっくりと時間を持ちたくて外に宿を求めた。


二人の時間を座敷で過ごし、明け方それぞれの場所に帰る途中のことだった。

以前に見たことのある数人の男が俺たちの前に立ちはだかった。


「お前ら新選組か?」


その声はどこかで聞いた様な気がした。前に祇園で騒ぎを起こした連中に似ていた。

だが、今は非番。まして秀頴もいるので無用の立会いは御免被りたい。


「新選組に見えますか?」


穏やかに言ったつもりだったが、それが余計に気に障ったらしい。


「見えるから言ってるんだよ!」


すでに鯉口を切っている奴もいる。完全にやる気でいる。こうなれば逃げてはいられない。


あ… 秀頴を巻き込むのはまずいか? 江戸の四大道場の次期跡取りと言われている

秀頴がやられるなんてことはちっとも心配していない。ただ江戸から来た旗本が切り結んでもいいのか? そんな疑問は残ったが、良いも悪いも斬りかかられては対抗するしかなかった。


二人と四人で切り結ぶことになったが、あっさりと決着し二人で番所に向かう。


「やっぱり宗さんの腕は確かなもんだねぇ」


嬉しそうに秀頴がいう。


「そういう秀頴だって、いきなり来られても対応できるんだからすげぇよなぁ」


お互いに称えながら番所に出向いて説明した。番所の人達とはすでに馴染みになっていて、多くを説明することも無くあっさりと終わった。秀頴のことについても特に咎めもなくその日は終わった。




   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★




京の桜。ついにこの季節がきた。俺の大好きな桜が舞う。それも京の都でだ。

この風情を秀頴に、いや二人で見たいと願っていた。都の花見客の数は半端なく多い。

そんな中で、ゆっくり桜を眺めていられる場所も探しておいた。


ついにその時期が来た。秀頴を連れ出して桜見物。まずは初心者向きに八坂の奥の枝垂れ桜から案内しよう。



二人で歩く京の町。舞い散る桜。最高に好きな季節を最高に好きな人と迎える。

こんなに幸せなことはない。京にきた目的はこれなんじゃないかと勘違いするほどに幸せな時間だ。


闇が迫り、辻々で篝火が焚かれる。闇に浮かぶ枝垂れ桜。篝火を背にして桜と秀頴が闇の中から照らし出され、輝いて見える桜と秀頴。これほどに美しい光景はない。


「綺麗だ…」


無意識に感嘆の声がもれる。


振り向いて照れくさそうにしている秀頴は照れてほんのりと赤くなっていた。


「どうした? 桜より先に俺に酔っちまったのかぃ?」


自分で言った言葉に赤面した。

もう気持ちは早く二人にきりなりたかった。宿に向かいたいと思いはしたが

まだとっておきの桜を見せていない。


お互いに照れて赤い顔を闇に隠しながら、山裾へ入っていく。

ここは去年探しておいた俺だけの桜の名所。誰にも邪魔されず一晩中でも

桜を堪能できる場所だ。


「どうだい? 秀頴。綺麗なもんだろう?」


秀頴は頭上の桜を眺めたきり動かない。


「宗さん、こんなところに連れてきてくれて有難う」

「こちらこそだよ、秀頴。付き合ってくれて有難う」



半刻ほど桜を眺めながら酒を酌み交わしていたが、桜よりも秀頴を欲している。

あれほど好きだった桜。綺麗に咲き誇っているというのに今は桜よりも秀頴が欲しい。


「行くかい?」


早々と立ち上がった俺を不思議そうな顔で見上げる秀頴。


「宗さん、もういいの? 桜は今しか見られないんだよ」

「もういいんだ、秀頴とも今しか一緒にいられないんだからさ」


その言葉に目を伏せたまま秀頴はゆっくりと立ち上がった。


「そうだね。おいらも宗さんと同じ気持ちだよ」


二人で足早に宿に向かった。



『今しか一緒にいられない』その時は秀頴が京にいる間のつもりだった。

数日後、この言葉は全く違う意味で俺たちの上に重くのしかかってきた。

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