再会…13

ひとしきり求め合って心を満たした後は、お腹を満たさなきゃならないらしい。

秀頴の持論なのだそうだ。久しぶりに酌み交わす酒。

共に食べる膳。江戸にいる頃は当たり前だったことが今では難しくなり

その分、このひと時がこの上なく有難く、この上なく嬉しく楽しい。


気がつくと寝転がって話をしていたはずが、いつの間にか寝てしまっていた様だ。

こんな貴重な時間を寝てしまうなんて勿体無いこと。


寝惚けてぼんやりしていると、眠いはずなのに気持ちが昂ぶる。

心地良い舌触り…? ん? 秀頴の舌が俺を確かめていた。

触れている場所はどんどんと熱を帯びる。

されるがままにしていると、秀頴の手は俺の傷を辿っていく。

左鎖骨のえぐられた傷、背中のやけどの様な傷、腰の凸凹になった傷跡。


俺の上から雨が降ってきた。秀頴から情の伝わる雨が降ってきた。

「秀頴?」

じっと見つめる秀頴は何か言いたげだ。

声をかけようとした瞬間、一番弱いところに触れられた。

花街では、何をされても感じない男だといわれてきた。確かにそうだった。

どこをどう触れられたところで何とも思わなかった。

それは、俺が本気で惚れていなかった。ただそれだけ。


その証拠に秀頴に触れられると、どこもかしこも熱を帯びて

今までになかった感情が目を覚ます。

不意に声が出てしまう。


「…ん」

「宗さん?」

「あぃ?」

「宗さんは、おいらのものだよね?」

「あぁ…」触れられる手のせいで思考が止まる。まともな返事すら出来ない。

「ねぇ、いいかな?」

「ん?」

「そっちにいっても、いいかな?」

「くるかい?」

平静を装ってみたものの、声がうわずる。

お互いがお互いのもの、それでもまだ口説きたくなる。


「秀頴。俺をさ、秀頴のものだと教えておくれな」

「宗さんは、とっくの昔から、おいらのものだよ」

「そうだからさぁ…」そう言って秀頴の腰に手を当てて煽る。


人を受け入れることは大嫌いだったはずだ。

それは幼い頃から強いられたこと。

屈辱的で、力で押さえ込まれることで自分の無力を感じながらも

抗えなかった過去。


とても肌を合わせることに喜びを感じるとは思わなかった日々。

まして、組み敷かれることは屈服し服従したことでしかなかった筈なのに。


秀頴だけは違っていた。これまでと反対に秀頴に組み敷かれることに快感を覚えた。

そして、秀頴の手に翻弄されることが嬉しい。

求められることが、こんなにも嬉しいことなのだと初めて知った。

秀頴から求めて貰えたことは、この上なく至上の喜び。もう何も欲しいものはない。

ただ、秀頴だけがいれば俺は満たされ、充足した日々を送れることを知った。


人を恋うるとは、こんなにも喜びの深いものだったのかと今更ながらに思う。

秀頴の腕の力はそのまま求める気持ち。

それが嬉しくて声にならない声となり、お互いを求め合い、貪りあう。


このまま何もかもを捨てて、この時間だけが残ればいいのに。

そう思いながら秀頴の艶やかな背中に手を回し、強く抱きしめて夜が明けた。

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