再会…10
秀穎との再会。久しぶりにみる秀穎は何も変わらない。
いや、今までの部屋住み時代から脱却して、
上洛を果たした自信の様なものが宿ってきていた。
秀穎は気力に満ち満ちて眩しく見える。やっぱり勝てないなぁ。
なんて思いながら、ふと自分の着物の裾が目に入った。
血の染み…
今朝の巡回で切り結んだ時のものだ。
秀穎に見られたくない現実がそこにあった。
「やっと会えたね! 宗さ、、、 どうしたの?」
「あ、、いや…」
切り結んだあと、いや人を斬った跡が今の俺を語る。
眩しくなった秀穎に反して、地獄に堕ちていく自分が見える…。
顔が上げられない。正面から秀穎が見られない。
「宗さん?」
「えっ… あぁ…」
「どうしたの?」
「い、、いや、大丈夫だ」
「じゃさ、何でこっち向いてくれないの? 何かあったでしょ?」
「あ、、いや大したことじゃない」
「もしかして、おいらが訪ねて来たのは迷惑だった?」
「そんなことあるもんかよ!!」
「じゃなんでこっち向いてくれないんだい?」
「あ… いや、だから」
秀穎は俺の視線を辿って血の染みを見た。一瞬止まる視線。
「宗さん。もしかして、これ?」
秀穎は血の染みを見つめたまま、尋ねる。
「あ… あぁそうだ。今朝斬った。京に来てこんな仕事をしてるさ」
自嘲気味に話した。
「だから何? それがどうしたの? 新選組の仕事でしたことでしょ?
それなら恥じることじゃないでしょ?!」
「いや、、でも…」
「宗さんは、今の仕事をどう思ってるの?! 嫌々やってる?」
「それはない。ただ…」
「ただ…、なんだい?」
「人を斬った手で秀穎に触れたくない…」
「何でさ?!」
「秀穎を汚すみたいで、嫌だ」
「宗さん、おいら達は公方様にために働いてるんだよね?
そのためなら人を斬ることも、自分の命すら盾にするのも当然だよね?」
「うん」
「宗さんは、そのために、京の治安の為にしてることだよね?」
「うん」
「だったら、そんな引け目に思うことはないでしょ?」
「いいのかぃ?」
「そんなことよりさ、大事なのは宗さんの気持ち。心変わりはないね?」
「それだけはない!!」
「それなら何も問題ないじゃないか」
秀穎はいつもの和やかに微笑む。
「有難う」
「いいからさ、ねぇ顔をあげて見せてよ」
改めて顔を合わせるのが照れ臭くなった。
今度は照れて顔があげられない。弱った。
「宗さんどうちゃったのさ? まだ駄目?」
「いやさ、あの… 改めて顔を見ろと言われるとさ… あの…」
「なに?!」
「照れ臭くていかん!!」
その言葉を聞いた途端、秀穎はにじり寄って急に俺を抱きしめた。
久しぶりの秀穎の腕の中は心地よく、澱んだ心を清めて貰った気がした。
いつもの匂い。肌の弾力。全てが前と同じだった。
秀穎の腰に手を回す。
「あぁ… やっぱり秀穎がいいねぇ」
「でしょ?!」
「あぁ一番だよ」
「一番?」
「そう一番!!」
「ねぇじゃさ二番もいる?」
「いないよ。秀穎だけだよ」
「本当だね?」
「あぁ本当だよ」
少し落ち着いてから、秀穎はまた話始めた。
「ねぇさぁ宗さん。」
「なんだい?」
「そろそろ顔を見せちゃくれないかねぇ?」
「みたいか? いつもの顔だぞ」
「だってさぁ、おいらの宗さんが京の新選組の一番隊なんだよ。
誇らしいじゃないか。だからさぁ花の顔(かんばせ)を見せとくれよ!!」
「秀穎… それを言われると余計に照れくさい…」
くすくすと笑い始めた。やっぱり秀穎は変わってなかったことに
安堵を覚えた。
二人で懐かしい話をしていると外から声がかかった。
「沖田さん。島田です。あの… お茶をお持ちしました」
「あぁ有難うよ」
どうも島田は秀穎と話がしたいらしい。
そう思っていた俺の予測とは違うことを言い出した。
「沖田さん。風呂の時間なんですよ。上が入ってくれないと下の連中が
入れなくて…」
「あぁそうか。そりゃ悪かった。じゃあ風呂…」
と言いかけて気づいた。秀穎がいた。
「秀穎はどうする? 今日は宿に帰るのかい?」
「いや。おいら今日は自由だ。泊まってよけりゃここに…」
「じゃ… あの良かったら伊庭さんもご一緒に…」
そうだなと言うつもりだったが、風呂?! 風呂ってことは…
全部見られてしまう!! いやさ、今更なのは判ってるが
こんな明るい時間から二人で風呂とは… 困った…
俺が照れを隠してどう断るかを考えている間に
「風呂かぁ! そりゃいいね。宗さん一緒にはいろうよ!!」
照れるどころか嬉しそうな秀穎。本当に平気なのだろうか?
「あっ… いや…」
ためらってる俺を尻目に
「宗さんが嫌なら、おいらが他の人と入ろうか?」
他の人と入るだ? 下の連中と入る? 冗談じゃねぇ!!
秀穎の肌は俺以外の奴が見ちゃならねぇ!!
ここは腹を据えて一緒に風呂に入ることにした。
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