アルマンチェル村

12話目 リイラの故郷 アルマンチェル村

「いってらっしゃい。たまにはフィアライに帰ってきてね。」

鈴愛が瞳をうるませる。

帰ってきてね、って、私フィアライの住人じゃないんですけど。

「うん。いつかまた来るよ。」

よしよし、と鈴愛の頭を撫で、にこっと笑う。

「ミレイーー?行くよー?」

少し離れた場所でリイラちゃんが手をぶんぶん振っている。

「あっはーい。またね、鈴愛」

鈴愛の顔を見ると、まだここにいたい、って気持ちが膨らんでしまうから、振り返らずにリイラちゃんのもとへと走る。

「いってらっしゃい」

そんな鈴愛の声を背に、私達はフィアライを出た。




「フィアライに旅行気分で行ったのに、あんなことが起きちゃうとはねぇ……。」

険しい顔でつぶやくリイラちゃん。

「あ、はは……。」

ゲームの展開だからしょうがない───そんなこと言えるわけがない。

笑ってごまかす。

「あ、ミレイ。降りるよ。」

「え?」

疲れちゃったのかな?

「いや、疲れてはないんだけどさ。ちょっとしか。」

ちょっとは疲れているらしい。

「私の村の周りって、結界がはってあるんだよね。浮遊魔法を打ち消したり空に飛んでいる魔物を焼け焦がしたりする結界が。」

「えぇっ。なんでそんな結界が……。」

「村を守るためだよ。空から敵が来たら戦い辛いから、結界をはろう!ってなったの。空を飛んでない敵なら簡単に倒せるからね!」

「へー。」

空を飛んでる敵を倒すのは確かに面倒くさい。弓とか魔法とかを使えないと降りてくるまで待たないとだし。

でも、空を飛んでない敵を倒すのが簡単、というのはなぜだろう?歩いている敵にも、強いのはたくさんいるのにな。

という疑問を持ちつつ、地面に着地する。

「なんで空を飛んでない敵は倒すのが簡単なの?」

思い切って聞いてみた。

「っそれは─────」

言葉を詰まらせたリイラちゃん。

「いっ言いたくなければ言わないでいいよ?!」

私は慌ててそう言った。

「村に行ったらどうせ分かるから、村で言うよ。」

リイラちゃんはそうつぶやき、村へと足を進めた。その時。

突然、リイラちゃんの真横から狼のような姿のモンスターが現れて、リイラちゃんに襲いかかった。

「リイラちゃんっ危ない!!」

私の声でリイラちゃんはモンスターの存在に気づくことが出来たが、状況が飲み込めなかったのか、そのまま固まってしまった。

私じゃ間に合わない……!!

「邪魔」

突然、私の前にふっと影が現れた。その影は一瞬で私の前から消え、リイラちゃんを通り越したところに移動した。

それと同時に、鮮血を噴き出しながらモンスターが音もなく倒れた。

「え?」

私は訳が分からなくて間抜けな声を出す。

「ルウラ!」

リイラちゃんがその影に声をかけた。影を辿ると、淡い水色の髪を後ろで束ね、紫水晶の瞳を光らせた女の子が剣を片手に立っていた。

年は私より少し幼いくらいだと思う。10歳ほどだろうか。

「リイラ姉ちゃん。帰ってきたんだね。お帰り。」

冷たく言い放ったルウラちゃん。くるり、と振り返って村の方へと歩いていった。

「ルウラちゃん?ってリイラちゃんの妹なの?」

「ううん。私は一人っ子だよ。」

「えっ」

「村の人はみんな家族的存在だからね。私もルウラのこと妹って思ってるし。」

「あー。」

そういうのいいよね。みんな家族、みたいなやつ。東京じゃそんなことできないもんなぁ。大家族の度を軽々と越してしまう。

苦笑いを浮かべた私を見て、リイラちゃんは首を傾げた。




「あ、ついたよ。」

私とリイラちゃんの前に木で出来た扉と柵が建っていた。頑丈なつくりだ。

ギイッ

私達は扉を開け、村に足を踏み入れた。




「リイラ!お帰りなさい。隣の可愛らしい女の子は───?」

肩までくらいの長さの髪を垂らした女性がこっちに走ってきた。

「可愛らしい女の子」と言われるとなんだか恥ずかしくなる。こんな見た目でも、中身は立派な高校生なのだから。

「ミレイです。リイラさんと共に行動させて頂いている者です。よろしくお願いします。」

赤くなった顔を隠すようにお辞儀をする。

「礼儀正しい子ね。歓迎するわ。アルマンチェルへようこそ!私は村長の娘のヒュナ・アルマンチェルです。」

笑顔で自己紹介をしてくれたヒュナさん。

とにかく歓迎してくれたようでホッとした。

「あ、もうこんな時間ね。詳しいことは明日にしましょうか。ミレイさんの部屋は空いている客室にしましょう。」

空を見上げる。ヒュナさんの言った通り、空は綺麗な茜色から少しずつ黒く染まりかけていた。

「ついてきて。すぐに着くわ。」

そう言われ、私はリイラちゃんと一旦別れ、ヒュナさんに小走りでついていった。



────アルマンチェル村の物語が始まった。

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