11話目 ダークインカーネル

「ファータスぅぅっ!!許さねぇ…」

「いつまで言うの?それ。もうファータス倒しちゃったのに。」

「ふふっ」

私達の会話が宿屋の一室に響く。

今、私とリイラちゃんと鈴愛は、フィアライの宿屋にいる。

なぜこうなったかと言うと、ファータスとの戦いが終わったあと鈴愛が、

「城に客室が何部屋かあるから、使いなよ!」

と言ってくれたが、さすがに城は豪華すぎて居心地悪くなりそうだから断った。

でも、どこかで休みたかったから、宿屋に行ったんだ。

そしたらなぜか鈴愛もついてきてしまっていた。というわけ(お金は鈴愛が払ってくれました)。

宿屋の受付の人がすんごい緊張してたなぁ。

軽く苦笑しながら、椅子に体を預ける。ギシッと椅子のきしむ音が耳に届く。

「おねえ…じゃなくて、ミレイとリイラは、もう違うところに行ってしまうの?」

その質問にリイラちゃんが答える。

「あー。そうですね。もっと冒険しないとアイツにたどり着けないと思うので。」

寂しそうな瞳を浮かべる鈴愛に罪悪感が生まれるが、それより気になったことがある。

「「アイツ」って…誰?」

「………ミレイ、本当に記憶喪失だったりする?」

怪訝そうな顔で私を見つめる。

「記憶喪失なわけないじゃん!」

「なら、アイツの名前覚えてるはずだけど?」

「うっ」

何も言葉を返せなくなる。

別に記憶喪失なわけではないのだが……

いや、これは逆に記憶喪失といえば、それを口実にいろいろこのゲームの詳しいこととか教えてもらえるんじゃ……!

「わっ私、記憶喪失です!」

あわてて言ったから、なぜか敬語になる。

でも、リイラちゃんは納得してくれたようだ。

「やっぱりそうだよね。」とかなにやらブツブツ言っている。

「で、アイツって誰?」

もう一度聞いてみる。

リイラちゃんは呆れたようにため息をつき、口を開いた。

「ダークインカーネルって名前の奴。」

私は目を見開いて驚いた。

その名前には聞き覚えがあったのだ。

「お姉ちゃん…ダークインカーネルってまさか……」

鈴愛が雪のように白くて美しい顔を引きつらせて囁いてきた。

「うん……」

言葉を続ける。



「ボス、だね……」



私の言葉にうんうんとうなずく鈴愛。

ボスの存在忘れてたな……

そっか。私、ボス倒さないとダメなんだった。

「この世の悪いことは、大体あいつが関わってくるんだ。」

私達の会話に気づかずに話を続けるリイラちゃん。

この世の悪いことは、大体あいつが関わってくるの?!すごいなぁ。さすがボスになるほどの怪物だ。

「私の両親もあいつの部下に殺された……」

目を伏せ、悲しそうにうつむく。

そんなリイラちゃんを慰めようとして、椅子から立ち上がってリイラちゃんが腰掛けているベットに近寄る。

「だからね、私、あいつが許せないんだ…ファータスとは比べものにならないくらい。」

怒気が混ざった声でブツブツとつぶやくリイラちゃん。もう私達に話しかけてるんじゃなくて、独り言みたいになっている。

ずん、と空気が重くなるような感覚がした。

突っ立ったままだった私は、空気の重さに耐えられなくなってぼすっとベットに座り込んだ。

リイラちゃん……ダークインカーネル、略してダークに対する恨みがすごい……

まぁ、肉親が殺されたって言うなら、当たり前だけどね。

でもこのままだといつまでもリイラちゃんは悲しいままだ。

そっと声をかける。

「リイラちゃん。」

リイラちゃんの肩がビクッと震えた。

そして、バッと険しい顔つきで私を見た。

リイラちゃんの顔が険しくなっていたのは一瞬で、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「あっごめん!ミレイがいること忘れてた!」

ひ、ひどいなぁ……

いつの間にか、あんなに重かった空気が嘘のように軽くなっていた。

無理をして元気を見せているような気がするし、まだ悲しい気持ちは消えてないはずだけど……リイラちゃんの目が「これ以上は喋らない」と言っているような気がして、口に出そうとした言葉を飲み込んだ。

「ねえ。覚えてる?フィアライについたとき言ったこと。」

すっかりいつものような明るい声で話すリイラちゃん。

「………?なんか言ってたっけ?」

私はきょとん、と首を傾げる。

「私が言ってたじゃん!「私の住んでたとこは、フィアライの奥の山をこえたとこだよ」って!」

リイラちゃんが少し声を大きくして言った。

必死であのときの記憶を探る。

「あー。そういえば言ってたような…いつか行きたいなーって思ってた気がする。」

「ホント?!じゃあ、来てよ!」

キラキラした目で私を見つめたリイラちゃん。

「よし!決まり!次の行き先は私の故郷ね!」

リイラちゃんは心底嬉しそうな声を出した。

その嬉しそうな笑顔がうつったのか、私まで笑顔になった。


「あのー。お二人さん。私のこと忘れてません?」

部屋のすみっこで、鈴愛がぽつり、と言った言葉は、私達の耳までは届かなかった。

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