10話目 早すぎる裏切り
「鈴愛っ」
────はぁっ、はぁっ
荒い息づかいが長い廊下に響く。
しばらくして、大きなドアが開かれている部屋についた。
私の2、3倍ほどの高さの立派な扉だ。
「ここ…会議室じゃない…?ドア開いてるんだけど…」
リイラちゃんが息を切らして言った。
その時、ドアから人影が現れた。
「誰っ?…って、鈴愛?」
勢いよく飛び出してきたのは、額に汗を浮かべた鈴愛だった。
「お、お姉ちゃん!じゃなくて、ミレイっ!」
焦ったように私に駆け寄ってくる。
「あのねっ、急にブレードブルートって奴が襲ってきたの。お姉ちゃん、ブレードブルート、覚えてるよね?」
お、覚えてない…!
「ほら、ファータスと一緒にフィオをまた襲った奴だよ。」
思い出して!と鈴愛が言う。
う〜ん。う〜ん。
「あ、思い出した。」
ブレードブルート&ファータスはすんごい厄介だった。
ブレードブルート一匹ならまだ楽なのに、隣でファータスが強化魔法とか回復魔法とかを使ってきてめっちゃ面倒くさいんだよね。
今はファータスが味方だから、楽に戦えるかも。
……と、思ったときだ。
「ダークポイズン」
「ミレイっ…!」
ファータスの呪文を唱える声と、リイラちゃんの叫び声が後ろから聞こえた。
鈴愛がとっさに私を抱えて倒れる。
私の頭上を、闇がすごい速さで通り抜けていった。
「っ何?!」
どうなってるの?!
「ファータスっ!やっぱお前敵だったのかっ!」
リイラちゃんがギッとファータスをにらみつける。
ファ…ファータス?!
ふわっと浮いてブレードブルートの後ろに着地したファータス。
にこにこと笑っている。
「ねぇミレイ。君さ…僕達の仲間にならない?」
裏切った後に変なことを言ったファータス。
「はぁ…?」
「僕、君みたいに強い味方が欲しいんだ。」
どう?と聞いてくるファータス。
どうと言われましても…
断る以外に選択肢が見当たらない。
「敵の味方にはなりたくないよ。」
こ、断っちゃった……
言ってから少し後悔する。
これから戦わないといけないのかぁ……
つらいなぁ。
「じゃあ、君殺さなきゃ。ここで逃したらもう勝てないだろうからね。」
顔を変えずに恐ろしい事を口にしたファータス。
「なっ……」
「私がさせない! ファイア!」
リイラちゃんが杖から炎を弾丸みたいに飛ばす。炎が飛んでいく先にはファータスがいた。
ファータスに当たる!そう思った瞬間。
ガアッ
ブレードブルートがファータスをかばうように前に立ち、炎の攻撃をくらった。
グアアアッ
苦しそうに吠える。
そんな光景をみたファータスは、
「スモールアイス、ヒールライト」
とささやいた。
スモールアイスで火を消し止め、ヒールライトで火傷を癒やす。
同時に2つの魔法を使うファータスを見て、レベルの違いを思い知らされる私とリイラちゃん。
「リイラ。君は弱いね。レベルは2桁もいってないのかな?」
ブレードブルートを完治させた後、挑発するように笑ったファータス。
ん〜〜こいつムカつくな。
なんで仲間にしようとしたんだろう。
ファータスに対する怒りで体中が熱くなる。
私はリイラちゃんの前に立って、杖を握りしめた。
怒りをこの魔法に全て込める。
「ファイア」
ドロリ
杖から出てきたものは……炎ではない。
「よ…溶岩…?」
溶岩が杖からドロドロと流れる。
溶岩は、ファータスとブレードブルートに向かってゆっくり流れていく。
あまりの熱で、杖を離して遠くへ逃げたくなるのを我慢する。
「フローティ…」
浮遊の呪文をファータスが唱えようとした瞬間。
溶岩が膨らんだ。
そして、ブレードブルートとファータスを、袋の中に入れるかのように包み込んだ。
「うわあああああああ!!!!」
ファータスの悲鳴が途中でぷつんと途絶えた。
溶岩が消える。
溶岩に包まれた1人と1匹も一緒に消えていた。
「…まさか怒りがこれほどだとは……」
自分に驚く。
「お姉ちゃんっ!すごーい!」
後ろから鈴愛が抱きついてくる。
気を抜いていたときだったから、一緒によろけて倒れる。
「痛ぁ」
「ごっごめん!」
あわてて鈴愛が私から離れる。
「ファータス…許せない…」
隣でリイラちゃんが燃えている。
「アイス」を唱えようとしたほど、リイラちゃんを纏う炎がはっきり見える。
「わわっ!リイラちゃん、落ち着いて!」
「ミレイがあいつを一発で倒しちゃったのもいらつく。」
私を睨みつけたリイラちゃん。
私も不満の対象だったらしい。
でも、倒したのがいらつくってなんか理不尽な気もするんだけど……
「リイラ。落ち着いて?」
鈴愛が口のはしを少し上げて笑みをつくる。
その美しさにリイラちゃんの体の熱が違うものになった。
「は、はははい!」
私に対する怒りが収まったことにホッとして、私はふぅ…と安堵の息を漏らした。
フィアライで起こる出来事は、今、全て解決した。
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