隣の席の美少女(ロボット)は僕の体が気になるようです

🤖

 新学期の席替えで美少女と隣の席になった。


「よろしくね、ケイくん」


 礼儀正しい彼女、三ケみかやまアイはにこりと僕に微笑んだ。

 白くて柔らかそうな肌、サラサラの長い黒髪、大きな瞳。

 折れそうなほどに細い腕。

 でも、僕はさほど嬉しくない。


「……よろしく」

「アイ窓際じゃん! うらやま!!」


 僕の返事は、彼女の友人達によって遮られた。

 可愛らしくて性格もいい彼女の周りにはいつも人がいる。

 隣の席になろうものなら、そいつらの騒がしさに耐えなければならない。


 ……いや、無理だな。


 席替えは帰りのHRにあった。そして今は放課後。文芸部幽霊部員の僕は、今日は家に帰ることにした。


 ――鞄を持って席を立てば。

 僕の席はあっさり三ケ山目当てのクラスメイトに占領される。


 帰るからいいんだけどさ。


 気配を消して教室を出る。

 歩きながら僕は憂鬱だった。明日から休み時間の度に取り巻きの煩さに耐えるか、どこかに行って時間を潰さないといけなくて。


 そりゃ、隣の席に美少女がいれば、それだけで授業中はとても楽しいよ!?

 でも、隣の席だからってそうそう話しかけられるわけじゃないし、教科書忘れたとか言って見せてもらおうとしたら、取り巻き連中から後でどんな目にあわされるかわかったもんじゃない。


 はあ。


ケイくん!」

「わゅあ!!」


 急に呼びかけられて変な声出た。

 やめろよ、人が考え事しているときに突然声を掛けるのは!!


「三ケ山……」


 そこにいたのは、隣の席の美少女だった。


「桂くん、今帰り?」

「うん、三ケ山は?」


 ちなみに桂は苗字だ。

 下の名前っぽいけど、残念ながら違う。


「隣の席になったし、桂くんと話したくて追いかけてきちゃった」


 う゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛い゛!!!!

 隣の席の美少女が追いかけてきてくれただと!?!?!?

 何これドッキリ? いや三ケ山さんに限ってそんなことするわけないじゃないか! じゃあなに? 僕の都合のいい妄想?


「え、……そんな、僕と話しても楽しいことなんて」

「そんなの、話してみないとわからないじゃない?」


 楽し気に笑う三ケ山さんはそれだけで絵になる。


「桂くん家どの辺?」

「三丁目の方で……」

「じゃあうち近いかも!」


 並んで歩きながら僕は辺りを見回した。

 同級生は他にいない。


 ―――

 ――

 いや、なんで僕の部屋に三ケ山アイがいるんだ。


「実は、桂くん着やせするタイプだよね」


 しかも、服の上からだけど僕の腕を撫でまわしている。

 やめてくれ。帰宅部兼文化部の腕を撫でまわして何が楽しいんだ!!


「直接触っていい……?」


 そんな可愛くおねだりされたら答えたくなっちゃうでしょーが。


「こんなガリガリの腕でよければ……」


 腕まくりをする。


「人間の体ってすごいね、こんなに細くてもちゃんと筋肉ついてる」


 少し失礼な言葉が聞こえた気がしないでもないが、美少女の柔らかい指先に腕を撫でられて、そんなのはどうでもいい気持ちになってしまう。


「桂くんが人間って聞いてからずっと触らせてもらいたかったんだよね」

「そうなんだ、言ってくれたらいくらでも触ってもらったのに」


 僕らの学校は自律思考回路搭載人型ロボットの居住地にあり生徒の九割がロボットだ。

 勿論、三ケ山さんも。


「私、人間って筋肉伸縮させて体を動かしているのよね。不思議」

「そっか、ロボットって関節稼動なんだっけ」


 僕らの見た目は似ているのに、ひと皮むけば全くの別物だ。


「うん、でも私絶対に人工皮膚と筋肉を纏いたいの! 動かし方も全然違うからそのためのプログラムも開発中よ」

「へ、へえ」


 僕は、僕の腹筋を触りながらキラキラとした目で力説する彼女に、ただただ圧倒されるしかなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣の席の美少女(ロボット)は僕の体が気になるようです @ei_umise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ