「凶馬は運命を妨げるか」十余一様

「凶馬は運命を妨げるか」

著:十余一様


https://kakuyomu.jp/works/16817330653178964380


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 死を目前にした男が煙草を吸いながら馬券を買う話です。

 1000字ちょうどという短さを感じさせない、濃厚な掌編小説となっています。


 まず、タイトルが格好いいなと思いました。問いかけ調でその答えが物語の中で明かされるかと思いきや、物語の中でも明かされず、それが余韻として残るようなかたちで締めくくられています。なので、読み終わっても「運命を妨げたのかなあ……どうだったのかなあ……」と考えてしまう作品です。


 私が気になったのは、主人公の終活に影響を与えた三人の存在。

「文筆家」「父」「亡き細君」です。小説の長さが1000字しかないのでそれぞれとの関係性が明確に描かれているわけではないのですが、なんとなく感じられるのが不思議です。


 個人的に思ったのは、「文筆家」と「父」が同一人物だったら面白いなということです。(作者様の意図と違っている可能性は往々にしてありますので、、一種の解釈とお考えください。)


 父も、危急のときに煙草を吹かしながらギャンブルにいそしむ人間で、迷惑を被ってきた主人公。ただ、文筆家としての父には憧れを抱いていて、今回、余命宣告されたことによりそれを真似てみた、という物語だと深いなあ、と勝手に思っています。白地に赤丸のパッケージの煙草が父の愛用のものと一緒だったりしたら、よりよいなあと思いました。全然解釈違ったらすみません。


 あと一つ気になったのが、下記の描写。


「馬券は単勝の一。亡き細君の名が一代であったから、一番を買う。(略)ただ、愛念と嫉妬の交じり合った一番を買うだけだ。」

(本文より引用)


 文筆家が綴った物語が好きなのであれば、その物語の主人公と自分に重なる部分が多く親近感を抱いており、同じように愛念を抱くのは理解できます。

 でも、嫉妬はどこからきてるのでしょう? 親近感がわくがゆえに、本作の主人公も物語中の一代に愛念を覚えるあまり、一代を嫁にしている物語の主人公に嫉妬している、とか? ここの「嫉妬」の念をどうとらえようか、個人的には悩みました。



 1000字でここまで考えることのできる濃密な本作、ぜひ気になった方はご一読ください。

 ご参加いただき、ありがとうございました。

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