第12話

 再び電子黒板に映る写真が切り替わり、今度はリーナ達が使っている武器の写真が表示された。


「お前達もエインヘリヤルなら専用でなくとも、汎用は持っているだろう。これらの武器をタロットという。アルカナの部品を使い、作られたものだ。汎用でも高級品なら、コアが使われている物もあるだろう。


 槍だったり、剣だったり、ハンマーだったりと様々な武器の写真が写る。

 リーナは自分に新たに支給された槍が高級品だったことを初めて知った。

 新たに支給された円錐型の槍には、アルカナのコアが内蔵されているとリーナは聞いていた。


「タロットにも適合率がある。おそらくだが、各々一番適合率の高い武器だったはずだ。もし剣が得意だったとしても、適合率が高ければ、弓や槍にされている場合もあるだろう。」


 そういえば、と言った感じの顔をしている生徒が何名かいる。

 この中には、エインヘリヤルを目指して、幼いころから訓練している人もいるので、そういうこともありえるのだった。

 リーナはエインヘリヤルになったのはたまたまだったので、そういう人の気持ちは分からなかったが。


「そして、コアが内蔵している物は『エレメント』と呼ばれる特殊機能を持つ。これは適合率がかなり高くない限り、使用ができないが、使用すれば、通常のタロットをはるかに超える力を発揮する。能力が合致すれば、自分のランクよりも2個上ぐらいの敵なら倒すことも可能になる程だ。」


 ちょうど、エレメントを発揮しているシーンだろうか、エインヘリヤルが光り輝く剣でアルカナを切り裂いている写真が電子黒板に映った。


「もう1つは専用タロット。固有武装とも言われるものだ。これはA級以上のエインヘリヤルのほとんどに支給される。全部、コアが内蔵されていて、A級以上に分類されたアルカナの素材で作られている。素の状態でも高級品の汎用タロットが特殊能力を発揮したのと変わらない性能を誇るだろうな。」


 今度はパッと武器の写真に変わる。

 その武器をリーナはつい最近見たことがあった。

 赤い大剣と言えば、分かるだろう。

 ルージュが使っていた専用タロットだった。


「これが俺が使っている『レーヴァテイン』だ。俺が倒したスルトの素材で作られている。」


 おおーっ!と生徒達から歓声が上がる。

 やはり、スルトというのはインパクトが大きいようだった。


「なんだ?レヴィア・ティンダー。」


 黒に近い青色の髪をした大人しい少女、レヴィアが指名される。

 どうやら手を上げていたようだ。

 レヴィアもエインヘリヤルなので、こういうことには興味があるようで、いつもの落ち着きが失せていた。


「は、はい!その『レーヴァテイン』にはスルトのコアが使われているんですか?」


「残念ながら、使われていない。スルトのコアは武器にするにはデカすぎた。直径が3m以上あったからな。」


 おおーっ!とまたもや歓声が上がる。

 一番数が多く、最弱扱いされているウルフのコアの直径がだいたい5cmから10cmで、リーナを襲った巨大なキメラのコアですら、直径1mもなかったのだから、規格外の大きさと言えるだろう。


「じゃあ、スルトのコアは武器にはできないの?」


 レヴィアと仲良くしている少女、ミランダが手を上げて質問する。

 肌が茶色く、とても元気な少女なのだが、少々、態度がふてぶてしく見えるところがあるので好き嫌いがはっきりと分かれるタイプだ。

 ミランダは似たような性格をしているアンナと仲が良かったのをリーナは覚えていた。


「できるとしても、無駄に巨大だろうな。出力が極端に大きいから、通常の素材やエネルギーの運用方法では、厳しいところもある。」


「じゃあ、お蔵入りってこと?もったいない。」


 ピリッと空気がこわばる。

 ミランダは素直に言っただけだが、ある意味、これは批判のようなものだ。

 ルージュが気を悪くしないか、生徒たちは不安だった。


「あぁ、だから、最近、運用方法が決定した。これに関しては、口止めされているから、言うことができないが・・・あと3か月もすれば、噂程度には、情報が入ってくるだろう。人の口には戸が立てられないと言うからな。」


 ルージュは気にせず、話を続けたので、生徒達はほっと安心する。

 それにそんな使い道が限られたスルトのコアがどう使われたのか、生徒達はとても興味が湧いた。

 多分、こうやって噂が広がるんですね、と他の生徒の様子を見て、リーナは思った。


「だが、ミランダ・ビアン。」


「は、はい!」


「その態度や口調は上司に対しては、あまりしない方がいい。俺は気にしないが、他の奴は気にする時があるからな。」


 ミランダは気が緩んだタイミングでルージュに声をかけられて、ピンッと背筋を伸ばした。

 リーナは今更だが、あることに気づいた。

 ルージュが自己紹介されていないにもかかわらず、生徒達の名前を知っていることに。


(まさか、生徒全員の名前と顔が一致してるの?)


 確かに10人と少ない人数だが、事前に覚えておかないと分からないだろう。

 休暇ついでにと言った割には、きちんと仕事をしている。

 リーナは悔しいが、ルージュが教えていることはとても勉強になっていた。


「さて、座学ばっかりだと面白くないだろう。次の授業は模擬戦闘としようか。」


 フッと電子黒板の電源が落ちて真っ黒になる。

 模擬戦闘と聞いて、生徒達の雰囲気がピリッとなった。


「俺もお前達の実力が見たいところだ。あぁ・・・安心するといい。実力に関しては既に期待していないからな。弱くて、恥をさらしても大丈夫だぞ。」


 一部の生徒が怒りで顔を赤くする。

 リーナもルージュの態度に怒りが湧いて、睨む。

 すると、ルージュが一瞬こちらを見て、笑ったような気がした。

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