第10話

 ウィンと教室の扉が自動で開く。

 リーナが教室の中に入ると、少しざわついていた教室がシンと静まり返る。

 教室にいた全員がちらちらとリーナのことを見ながら、何かを話している。

 アンナとミナが死んでしまったことを知っているので、仕方ないのは仕方ないのだが、リーナにとって、あまり気分がいい物ではなかった。


「リーナさん、大丈夫ですか?」


「・・・アウロラさん。」


 リーナに話しかけてきたのは、緩やかなウェーブの金髪が特徴の美少女、アウロラだった。

 アウロラとは、ミラを通じて、仲良くなった。

 アウロラとミラは読書という共通の趣味があったのだ。


「最近、訓練をよりハードにしたと聞きました。やりすぎは体に悪いですから、気を付けてくださいね?」


「はい。ありがとうございます。」


 アウロラはリーナの返事を聞いて、とりあえず納得したようで、自分の席に戻っていった。

 アウロラはリーナより2つ年上だ。

 これは留年したという訳ではなく、エインヘリヤル学園は入学条件を果たすと年齢に関係なく、入学することができるので、年齢がバラバラになるのだ。

 それにリーナが所属する特別クラスは、最低でもエインヘリヤルであることが条件なので、リーナを含めて10人しかいない。

 ちなみに、リーナはまだ16歳で、クラスの中では最年少だった。


(それにしても・・・先生、遅いですね。)


 いつもだったら、先生が来て、連絡事項などを言っている時間だ。

 なのに、今日はまだ先生が教師に来ていなかった。

 そうやって、数分経つと、ウィンッと教室の扉が開き、先生が入ってきた。


(あの人はっ・・・)


 先生の後ろには、見覚えのある人物がついてきていた。

 赤い装備は着ていないが、特徴的な赤い仮面に銀髪という滅多にない見た目をリーナが忘れるはずもなかった。


「えー、本日から担任が変更となります。私は副担任としてこのクラスに関わることになりました。」


 リーナを除いた生徒達は、先生の横に立っている赤い仮面をかぶった人物に興味津々のようだった。


「えー、新しく担任になるのは、今、私の隣にいるルージュさんになります。」


 どうぞ、と先生がルージュと呼ばれた人物を教壇を譲る。

 赤仮面の人物、ルージュは教壇に登り、教室を見渡した。


「・・・下はE級、上でもB級といったところだったか?全員、既にエインヘリヤルと聞いて、期待していたが、過剰な期待だったようだな。」


「あ!?てめぇ!ふざけてんのか!」


 このクラスにいる男子3人のうちの1人、特に喧嘩が早い男子であるラルゴが早々にキレて、ルージュを威圧する。

 ルージュはそれを冷たい目でちらっと見ると、そのまま無視した。


「・・・過剰な期待どころか、期待を抱くことすら、無意味だったようだな。これでC級とはエインヘリヤルも落ちぶれたな。」


「てめぇ!ふざけた仮面、かぶりやがって、素顔を見せやがっ・・・」


 ラルゴがズンズンッと自分の席から、教壇に向かい、ルージュから仮面を獲ろうと手を伸ばす。

 だが、仮面に触れる直前、ラルゴの動きがぴたりと止まる。

 ラルゴは固まったまま、顔を真っ青にして、冷や汗をだらだらと流していた。


「・・・席に戻れ。一応、授業中だ。」


 ルージュが口を開くと、ドスンッとラルゴは顔面蒼白のまま、しりもちをつく。

 ラルゴの異常の様子に、生徒たちはルージュを不気味だと感じていた。

 仮面という不思議要素も相まって、余計にその不気味さが後押しされていた。


「動けないか。まぁ、いい。自己紹介といこう。今日からこのクラスの担任となる。SS級エインヘリヤルのルージュだ。」


 自己紹介と同時に、ルージュから圧のようなものが生徒達に襲いかかる。

 その圧に耐えながら、生徒達はゴクリと息をのんだ。

 SS級、それは歴史上たった1人しかいないエインヘリヤル。

 4大アルカナの1機、スルトを倒した英雄だ。


(そんなっ・・・)


 リーナはルージュの自己紹介を聞いて、驚愕していた。

 仲間の死に対して冷たかった相手がまさか尊敬していたSS級だったとは思いもしていなかった。


「お前らを休暇ついでに鍛えてやる。覚悟しろ。」


 ルージュの口が三日月のようになる。

 その不気味で恐ろしい笑みは、これから起こるであろう困難を生徒達に知らしめているかのようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る