第4話
「・・・大きめのキメラではあったが、そう強い方ではなかったな。」
キメラの脇腹に刺さっていた赤い大剣を片手で持ち、大剣と同じ赤色の装備に包まれている。
リーナ達が纏い使っている汎用の武装とは明らかに違うものだった。
「お前が救助要請を送ってきたリーナ・アイヴァンだな?アンナ・ローゼとミラ・シュティフは?」
くるりとキメラを倒したであろうその人物がリーナの方を向く。
相手は、銀色というリーナと同じ珍しい髪色をしていて、赤い仮面をかぶっていた。
声や身長から見て、自分とほとんど同じ年齢の少年だ、とリーナは思った。
「アンナとミラは・・・キメラに殺されました。」
「そうか・・・では、撤収準備をしろ。」
人が死んだという情報をさらっと流す少年の態度に、リーナは怒りがわく。
コアを回収しようとしている少年をキッと睨んだ。
「・・・それだけですか?」
「ん?」
「人が死んだのにそれだけですか!?」
(・・・面倒なタイプだな。人の死を直接見るのは初めてか。いや、まさか、初めての任務か?運が悪かったとしかいいようがないな。)
少年はがりがりと頭を掻き、口を開いた。
少年は、その面倒そうに見える態度が、リーナの怒りを煽っていることに気づいていなかったが。
「そういう仕事に俺達はついているんだ。死ぬ時は死ぬ。諦めろ。」
「それでも人が死んだことには変わりはないんですよ!?なのに、なんでそんな簡単に・・・」
「俺は一度も会ったことがない相手だ。どう悲しめと?」
第三者がいれば、どうしてそんな言い方をするのか?と思うかもしれないが、死と別れに関する感情は、自分自身か親しい人間にしか解決できない問題だ。
少年はそれをよく分かっているのだが、不器用なのか、突き放すような言い方しかできない・・・いや、しなかった。
「それでも、一緒に戦う仲間ではないんですか!?」
「・・・そうかもな。なら、お前はこれまで別の戦場で死んだ仲間の名前をすべて覚えているのか?」
「それは・・・覚えていません・・・でも!」
「なら、この話は終わりだ。コアを回収して撤収する。」
少年はリーナから視線を外し、キメラのコアの方を向いた。
リーナは、人の生き死にを何とも思ってなさそうな態度をとる少年によりいっそう怒りが湧いた。
「あなたがもっと早く来てくれれば!アンナとミラは助かったかもしれないのにっ!」
そう叫んだリーナは、立ち止まって振り向いてきた少年を見て、ハッとなった。
仮面を被っていて、口元だけが見えるが、表情は分からない。
だが、仮面の隙間から覗いている瞳は、悲しみのような感情が浮かんでいるように見えた。
「あ・・・」
「そんな気持ちでやっているようなら、やめろ。誰かに助けてもらう?ふざけるなよ、自分の身は自分で守れ。」
少年はその言葉を口にした後は、一度たりとも口を開くことはなかった。
――――――――――――――――――――
「・・・。」
リーナは帰還後、電気を消した自室で、ベットの上に寝転がっていた。
寝ようとしても、今日の出来事や少年に言われた言葉が頭にこびりついていて、寝るに寝れなかった。
「アンナ・・・ミナ・・・」
リーナは、死んだ仲間・・・いや、友人の顔を思い出す。
戦場では泣けなかったが、今はもう安全地帯である自分の部屋にいる。
いつもだったら、アンナがミナを連れて、リーナの部屋に来るのだが、今日からはもう二度とそんなことは起こらない。
(・・・今の私には、静かすぎますね。)
最初の頃、アンナとミナと出会う前の自分だったら、静かな方がよかったんでしょうね、と少し自嘲気味に笑みを浮かべる。
笑みを浮かべているのだが、リーナの目から零れ落ちた涙は頬をつたい、ベットへとしみ込んだ。
「う、あぁぁぁっ!」
リーナは、枕に顔をうずめて、泣き続ける。
アンナとミナ、大切な友人との思い出が次々と頭に浮かぶ。
大切な思い出が今となっては、苦痛の元だった。
だが、それを忘れることだけはありえない。
アンナとミナの思いは、記憶は、友情は、リーナが大切にしなければならないものだから。
「ん・・・」
しばらくして、リーナは目を覚ます。
どうやら、泣き疲れて眠ってしまっていたようだった。
時間はもう遅い。
月の光がほのかに夜を照らしていて、リーナの部屋にも少しだけ光が入ってきていた。
「私は・・・あんな人とは違う。私は力をつけて、みんなを・・・仲間を守って見せる。」
リーナは天井に向かって手を伸ばし、何かを掴むかのようにグッと握りしめる。
リーナはある意味、あの少年のおかげで立ち直れたことに気づいていなかった。
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