第3話
「はぁっ‥‥はぁっ‥‥」
ドクンッ!ドクンッ!と激しく鳴る心臓を押さえながら、リーナは物陰に隠れていた。
リーナはキメラに殺されたわけではなかったのだ。
(助かりました‥‥)
キメラが建物を粉砕したのと同時に、大剣を盾にして物陰に隠れていた。
まさか、爪が直接当たっていないにもかかわらず、大剣を折られるというのは、リーナにとっても予想外ではあったが、幸運にも、崩れた建物がリーナの姿をキメラから隠してくれていたのだった。
「アンナ‥‥ミナ‥‥」
死んでしまった仲間の名前を呟き、リーナは目から涙をこぼす。
だが、泣いている暇はない。
まだ近くにはキメラがいて、見つかる可能性も残っているのだから。
逃げ切るまでは安心できない。
(私だけが生き延びても‥‥ううん、この考え方はいけない。)
リーナは考えを振り払うように首を横に振る。
「‥‥外を確認してみましょう。」
まるで自分に言い聞かせるように、これからの行動を言葉にする。
リーナは、そっと瓦礫の隙間から外を覗いてみた。
「‥‥?」
外が見えない。
確かに光が瓦礫の隙間から入ってきているにもかかわらず、外が見えなかった。
(これは‥‥いったい?)
リーナはそのまま固まっていると、ウィンと何かが動く音がして、目の前にあった光が動いた。
「しまっ‥‥!」
リーナが外の光だと思っていたものは、キメラの眼光だったのだ。
慌てて、その場から離れようとすると、横殴りの衝撃がリーナを襲った。
「くっ‥‥ぁぁぁっ!」
瓦礫とともに、リーナは宙を舞う。
瓦礫が盾になってくれたおかげか、あるいは、キメラが手加減したのか、どちらにせよ、リーナはまだバラバラにならずに済んでいた。
「っ‥‥」
リーナは朦朧とした意識の中、受け身をとって、流れに逆らわずに転がりながら起き上がる。
キメラの位置を確認しようとすると、リーナにフッと影が落ちた。
「あ‥‥」
リーナは上を向くと、そこにはキメラの前足があった。
死の気配を感じ取ったリーナには、もう抵抗する意思は残っていなかった。
(これで私も――)
ミラとアンナの後を追いかけることができる――と思った瞬間、リーナに落ちていた影は消え、ドォォンッ!とまるで爆発音のような音が聞こえた。
「っ!何が‥‥」
リーナは視界に入ってきた光景を疑った。
その光景は、死ぬ前に見る幻覚かと思った程だ。
『ウォンッ‥‥』
リーナを殺そうとしていたキメラは、脇腹に真っ赤な大剣が刺さった状態で横倒しになってもがいていた。
キメラが起き上がろうとしていたが、飛んできた何かが大剣が刺さっているあたりに衝突し、再び倒れ込むこととなった。
「焼き尽くせ――【レーヴァテイン】」
激突音がする中で、不思議と響く人の声。
その声がした瞬間、キメラの内部から炎が噴き出し、キメラは内側から爆発した。
「きゃあっ!」
リーナは腕で顔を庇いつつ、爆風に吹き飛ばされないようにしゃがみこんで、踏ん張る。
少しして、爆風が収まったので、リーナは腕を顔の前からどけて立ち上がると、キメラがいなくなっていた。
いや、キメラがコナゴナになっていた。
「いったい何が・・・」
リーナは周りを見回すと、先程までキメラがいた場所の辺りに、自分が一抱えする程の大きさをした球体が転がっていることに気づいた。
その球体はうっすらと光っている。
リーナは似たようなものを見たことがあった。
「あれが・・・キメラのコア・・・」
リーナ達が壊したウルフのものとは、比べ物にならない程の大きさだ。
ウルフのコアは大きくてもせいぜいハンドボール程度。
一抱えもする大きさのコアなんて、リーナは見たことがなかった。
リーナはまるで魅入られるようによろよろとコアに近づいていく。
「・・・っ!」
リーナはキメラのコアのすぐそばで呆然としていたが、先程の爆発によって舞い上がっていた粉塵が晴れて、周りが見えるようになってきて、ようやく気付いた。
自身のすぐそばに何者かがいることに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます