第2話

 ズドンッ!とリーナ達の背後にナニカが落ちてきて、砂を巻き上げた。


「きゃっ‥‥」


 ブワッと舞う土煙に巻き込まれるリーナ達。

 砂埃が目に入って、なかなか目を開くことができない状態だった。


「くっ!ラビットですか!?」


「‥‥分からない。」


 長距離をジャンプによって移動するラビットと呼ばれる巨大なウサギ型のロボットのような存在がいる。

 リーナは、そのラビットが跳んできたのだと考えるが、それは間違っていた。

 土煙が少し晴れ、ようやく目が空けられる状況となる。


「嘘‥‥そんな‥‥」


 ミラは、土煙を起こした相手の正体が分かったのか、何かを呟いて、呆然としている。

 リーナは、まだ相手が何なのか、分かっていなかったので、ミラに聞こうとした瞬間、視界の端に何かが映った。

 パッとそちらの方向を見ると、巨大な影が土煙の中にいるのが確認できる。

 その情報から導き出された答えは、リーナを絶望へと落とすものだった。


「そんな‥‥な、なんで、こんなところにキメラがっ!?」


 土煙が完全に晴れ、全貌が見える。

 そこにいたのは、翼が生えた巨大なオオカミで、複数の生物の特徴を持つロボット—―通称【キメラ】と呼ばれる存在だった。

 呆然としていたリーナだが、子どもの泣き声が背後から聞こえて、ハッとなり、まずやるべきことを思い出した。


「逃げてください!」


「で、ですが‥‥」


「早く!」


 気遣う余裕もないリーナは、女性に向かって怒鳴る。

 女性は、すぐに泣いている子どもを抱きかかえるとそのまま走り去っていった。

 リーナはそれを確認した後、呆然としているミナへと声をかける。


「ミナ!早く、弓を構えてください!本部に緊急連絡を送りました!時間を稼ぎましょう!」


(アンナもすぐにこの騒ぎに気づいて、来てくれるはず‥‥)


 勝つことは無理でも、時間稼ぎくらいなら、というリーナの認識だが、それは甘いと言わざるを得なかった。


「嘘‥‥そんな‥‥なんで‥‥」


 それに‥‥リーナが話しかけても、なぜか、ミナは呆然としたまま、同じ言葉を繰り返しながら、無防備な状態で、目の前にそびえたつキメラを見ていた。


「ミナ!早くしてください!やられてしまいます!」


「どうして‥‥なんで‥‥アンナ‥‥」


 リーナは、ミナの呟きから、『アンナ』という言葉を聞き取る。

 嫌な予感、想定がリーナの頭の中に浮かんだ。


(見てはいけない‥‥見ては――)


 と、頭の中では分かっていても、体はそれに反して、ミナが視線を向けている方向——キメラの口元へと視線を移した、いや、移してしまった。


「っ!」


 リーナが見たのは、キメラに噛まれ、血だらけになっているアンナだった。

 先程まで、明るくふざけていた活発な少女は、血で赤く染まり、ピクリとも動かなくなっていた。

 キメラはペッとアンナを口から吐き出す。

 地面にベチャッと落ちたアンナの体の大半は、既になくなっていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ミナはその光景を見て、錯乱し、弓を構えて、矢を射続ける。

 キメラがそれを煩わしそうに動き出したのを見て、リーナは慌ててその場から離れた。


「ミナ!早く、その場から離れてください!」


「あぁぁぁっ!」


 いつもの寡黙さ、落ち着きを失ったミナは、ビシュッ!ビシュッとその場に留まり、弓を射続ける。

 それは、キメラが前足をミナに向かって、振りぬいた時も同じだった。


「あぁぁぁぁぁっ―――」


「ミナァァァァァァッ!」


 ブシャッとキメラの爪によって、ミナが切り裂かれる。

 ミナは、恐怖と悲嘆で涙を流した表情のまま、事切れる。

 リーナはこみあげてきた悲しみと吐き気を抑え込んで、女性と子どもが逃げていった方向とは、真逆へと逃げだした。

 キメラへとすれ違いざまにランスを投げた後、アンナの死体のすぐそばにあった大剣を手に取った。


(アンナ‥‥ごめんなさい!借ります!)


『ウオォォォンッ!!』


 キメラは攻撃してきたリーナを敵とみなしたのか、リーナのことを追いかける。

 リーナは直線距離で移動すれば、自分よりもはるかに大きいキメラがすぐに追いついてしまうことが分かっているので、横道へと逃げる。

 だが、キメラは老朽化した建物を粉砕しながら、リーナを追いかけてきた。


(追いつかれる!)


 一か八か、リーナはくるりと反転すると、大剣を盾のように構えながら、キメラに向かって突進した。

 キメラはそれを見て、獲物が自分から向かってきたと認識し、前足をリーナに向かって振り抜く。

 その威力は絶大で、キメラの目の前にあった建物がまとめて吹き飛び、土煙が起こって、リーナの姿は見えなくなる。

 そして、土煙が晴れると、そこには、真っ二つになっている大剣が転がっていた。

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