機械仕掛けの生命 ーアニマ・エクス・マキナー

棚からぼたもち

第1話

「はぁっ‥‥はぁっ‥‥」


 荒廃し、既に廃墟となってしまった都市。

 人どころか、生命すらも存在しないような街。

 そんな街中を、まだ小さい子どもを抱きしめた女性が懸命に走っていた。


「はぁっ‥‥はぁっ‥‥」


 今にも力尽きそうな体に鞭を打ち、女性は走り続ける。

 なぜなら、立ち止まった時が、自分達の――自分と子どもの死ぬ時だと、分かっているからだ。

 もちろん、後ろを振り向くことなどない。

 そんな隙を見せた瞬間もまた、自分達の死が訪れるタイミングだと分かっているからだ。


『ウォォォンッ!』


 逃げる女性を追いかけているのは、オオカミ——生き物ではなく、ただオオカミの形をした銀色のナニカ。

 最も分かりやすい言い方をすると、ロボットが正しいだろうか。

 大きさは大型犬より少し大きいくらい。

 それが数で群れを成して、逃げる女性を追いかけていた。


『ウォォォンッ!』


 普通なら、疲労困憊で子どもという重りを抱えている女性が逃げられるわけがない。

 なら、なぜ未だに逃げることができているのか。

 それは――このオオカミ達が、自分達を恐れて逃げる女性を追いかけるということ自体を楽しんでいるからだった。


『ウォンッ!』


 まるで女性を急かすかのように、オオカミは吠える。

 女性は吠えられるごとに、少しだけ走る速度を上げるが、疲れ切ってしまった体は、根性論でどうにかなるものではなく、上げた速度よりも、下がる速度の方が早い。

 急いだり、遅くなったり、というのを繰り返していた女性は、疲れからか、足を引っかけてこけてしまった。


「あっ‥‥くっ‥‥」


 女性は抱きかかえていた子どもを庇うように地面に倒れ込む。

 ガリガリと肌が地面に擦りつけられた痛みで女性は顔をゆがめた。


『ウォンッ!』


 どことなく、楽しむのような吠え声をあげたオオカミ達は、こけて動けない女性と子どもを取り囲むように移動し、徐々に2人へと近づいていった。


「ひっ‥‥」


「うわぁぁぁぁんッ!」


 怯える女性と泣き叫ぶ子ども。

 その2人に、オオカミ達の牙が届きそうになった瞬間だった。


『ギャンッ!?』


 2人に襲いかかろうとしたオオカミに向かって、円錐型の槍ランスが飛来する。

 狙われたオオカミはそれに貫かれ、バラバラに吹き飛んだ。


『ウゥーッ!』


 オオカミ達は味方が倒されたことを察知すると、ランスが飛んできた方向を警戒する。

 突然の事態に戸惑う女性と子どもも、オオカミ達が警戒している方向を見ると、そこには、人が3人立っていた。


「対象は動物型アニマルのウルフ4機。その内、1機は即撃破。残りは3機です。」


「もう、リーナ、まじめすぎだってば!いちいち、そんなの言わなくていいって!」


「‥‥アンナが適当なだけ。」


 その3人は、まだ20歳にもなっていなさそうな高校生くらいの少女達。

 女性はとっさに、少女達に「逃げて」と言おうとしたが、その前に少女達は動き出した。


「‥‥ばーん。」


 弓を持った少女——ミラは、オオカミ、いや、ウルフの頭部を矢で貫く。


「よいっしょっと!」


 大剣を持った少女——アンナは、ウルフの首をいとも簡単に切り飛ばした。


「ハァッ!」


 無手だった少女——リーナは、地面に突き刺さっていたランスを地面から引き抜き、かなり大きいその槍を軽々と動かし、ウルフを貫いて、そのまま地面に叩きつけた。


「——オールクリア。敵はいませんね。」


「ほーら、簡単簡単。ウルフ程度に負ける私達じゃないって。」


「‥‥それでも、警戒は解かないのが普通。」


 女性も子どもも、自分達を追いかけてきていた凶悪な存在を簡単にやっつけてしまった少女達を見て、呆然としている。


「大丈夫ですか?」


「は、はい!ありがとうございます!」


 女性は、リーナに声をかけられて、呆然としていた状態から復帰する。

 そして、慌てて立ち上がり、頭を下げた。


「お姉ちゃん達ありがとう!」


 子どもも助かったことを理解して、笑顔で少女達にお礼を言う。

 子どもの純粋な感謝の気持ちに、少女達は照れ臭そうに顔を赤らめた。


「どういたしまして。」


「お、珍しい。リーナが照れてる。」


「ア・ン・ナ?」


「ひぇっ!わ、私、周りを確認してくるねー!」


 案んは、ジロッとリーナに睨まれ、慌ててその場から離れていった。


「‥‥すぐにいらないことを言うから、そうなる。口は災いの元。」


 ミラは呆れた様子で、走り去っていくアンナを見ていた。

 リーナは、アンナがどこかに行ってしまったので、気を取り直して、女性達に話しかける。


「私達が護衛しますので、一緒に避難所の方に向かいましょう。」


「は、はい!本当にありがとうございます!」


 女性は、少女達にぺこぺこと頭を下げる。

 リーナは自分よりも年上の相手にかしこまられている状況にちょっと困った様子だった。


「では、行き‥‥」


 リーナが2人を案内しようとした瞬間、は襲ってきた。

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