第12話 呼び出し
「皇帝陛下が俺の事を?」
「ええ、でもおかしいわ? さっきの話だと、貴方が『レンタル魔王』を始めたのは五年前よね? 私が聞いたのは子供の頃よ⋯⋯もっと前だったわ」
「なるほど⋯⋯そうか」
俺が『レンタル魔王』を始めたきっかけは、魔族たちの事を考えての事だ。
魔法で人の役に立つ、それが魔族の地位に繋がると信じているからだが⋯⋯。
それも、最初は戯れのような会話での、思い付きからだった。
「あの、一人で考え込んで納得しないで?」
「ああ、すまない。実は俺の事を『レンタル魔王』と呼んだのは、皇家に縁の深い人物でね。俺がまだ二十歳をちょっと過ぎた頃の話さ」
「何それ、詳しく聞きたいわ」
「勘弁してくれ。失恋の話なんだ⋯⋯立場を超えた二人の熱愛、そして破局。男は一人傷心を抱えながら帝都にやってきた。ありがちなストーリーさ」
そう、ありがちな話だ。
惹かれあってはいけない二人が惹かれ合った。
順当に破局し、男はただ、彼女を懐かしむ事しか出来ない。
その思い出の中に、皇家にマズい事があれば俺が助ける、という約束があった。
今回無料で依頼を受けたのもそれが理由だ。
「そうやって誤魔化されると、ますます気になるわ」
「もし君が失恋する事があったら、その時に話してお互い慰め合おう。それよりまずは、君の問題を解決しよう」
「⋯⋯上手く誤魔化された気がするけど、どうやって?」
「決まってる。食事が終わったら⋯⋯ヴァイスに会いに行こう。なんせ俺は一日とはいえ、恋人だからさ?」
俺の言葉に、カレーナは訝しげに眉を寄せた。
「⋯⋯どういう事?」
「決まってるだろう?」
俺はグラスを持ち上げ、中身を飲み干した後に宣言した。
「恋人に、前の男が付きまとうようなら⋯⋯追い払わないといけないな」
「でも⋯⋯どうやって彼に会うの?」
「外にメッセンジャーが沢山いるじゃないか。取りあえず、今は食事だ」
「う、うん」
──────────────────────
食事が終わり、俺たちは一階の事務所に戻った。
カレーナをソファーに座らせ、光魔法を使い、外の様子を観察する。
鏡には、先ほどまで幻影を追いかけていた騎士達が戻ってきていた。
「じゃあ、呼んでもらうか」
指先に、緑光を灯す。
風の精霊を使って、俺の声を増幅しつつ、外に届けた。
『カレーナ様からの伝言だ!』
突然の声に、騎士団に動揺が走る様子が、鏡に映し出される。
『カレーナ様はヴァイス様との会談を求めている! こちらにお連れしろ!』
鏡の中に、騎士団が何かを叫ぶ様子や、ドアをガチャガチャと開けようとする姿が見える。
『無駄なことは止め、さっさとヴァイス様を呼んでくるんだ!』
伝言が終わり、指先の緑光が消える。
俺もソファーに座った。
「さあ、これでヴァイスがやってくるだろう」
「こんな騒ぎを起こして、もう」
呆れたように言ったあとで、カレーナは自嘲気味に笑った。
「まあ、私が発端だから、言う資格は無いけど」
「そんな事ないさ」
しばらくそのまま沈黙が続く。
ややあって、カレーナが心情を吐露した。
「彼に会って、何を言えば良いのかしら」
当たり前だが、不安を感じているのだろう。
「んー⋯⋯これから何を言うべきかはわからないが、君はここまでに一つ間違えたと思う」
「聞かせて、私の間違い」
「ヴァイスとアンナが抱き合っているのを見た、って言ってただろう?」
「ええ」
「その時──ひっ叩いてやれば良かったんだ」
言葉とともに俺が手を振ると、カレーナが吹き出した。
「ホントに! そうしてやれば良かったわ!」
「その意気だ! 次は間違えない事だ」
緊張が少しほぐれたのか、カレーナが提案さてきた。
「食後のお茶でも飲まない?」
「いいね、淹れよう」
「私が淹れるわ、これでも少し自信があるわ」
「じゃあお願いしようかな──っと、茶はストップだ」
「えっ?」
外の様子が騒がしくなった。
また光魔法を使用して外の様子を観察すると、そこにはヴァイスがいた。
「どうやらご到着だ」
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