第5話 ともだち

美咲と会うまでの私は

保育園でも小学校でも

1人で居られる遊びばかり選んでいた

5才になる頃には

大人たちから言葉で教わった

みんな『ともだち』で

みんな『なかよし』

一緒に積み木やブランコで遊び

ごはんを食べる時には

手を合わせ『いただきます』という

なぜいつも、みんなで同時に動かなくてはいけないのか

1日という時間を共同生活で区切られていく流れに

私の身体は自然と拒否反応を起こしていた…

いつの頃からか

私は仮病をつかう事を

自然に繰り返すようになっていた

1人で居ることのほうが

いつも好きだった

小学校に入学してからは

どこに行っても、初めて会う大人たちから

決まって同じ事を笑顔で聞かれた

私の目を見て

顔を、息がかかる距離まで近づけ

『水季ちゃんのお母さんは どうして居ないの?』

大人は簡単だった…

遠くに住んでいると言うと

とても興味深い顔つきになる

天国にいると言うと

『ごめんね つらい事聞いちゃったね』と

急に引いてしまい

それ以上、根掘り葉掘り聞かなくなる

『ごめんね』の使い方が

いつも私には

『つまらない』という響きにしか聞こえなかった・・

当時、父子家庭は珍しかった

無理やり誘われ

『ともだち』の自宅に遊びに行くと

いつも

たくさんの絵本や、美味しいお菓子に囲まれた

初めて見る物や 食べたことのないお菓子

なぜだか犬が服を来て

人間様よりも、その家の主に見える

太っていてブサイクで愛想もない

そんなふうにしか見られない

自分自身の心が品素に思えてくる…

毎回、勝手にテンションが下がっていた

どんなに楽しもうと思っても

私には毎回

授業の延長のような空間だった…

『ともだち』の母親はいつも笑顔で

幼い私に向かい

毎回、同じ言葉をかけてきた

『私の娘と、これからも仲良くしてね♪』

小さく甘い飴をドロドロの

ワイロのように感じる私は

変人なの…?

今日は珍しく、いつも元気な美咲が

風邪をひいてしまい

私は1人で、下校していた

帰り道を長いと感じながら

土手を歩く足裏の感触も

いつもより痛い・・・

小石が私を攻撃してきているように感じる

そんな自分がバカみたいで

1人、心の中で笑っていた

その時、背中のほうから微かに声がした

懐かしいような 少しお道化たような…

振り返るのが面倒くさいから

気付かないふりをして

そのまま小石を踏みながら歩いていた

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