第4話 失踪者と赤色の砂

今夜は珍しく父が晩酌をしている

いつも決まって瓶ビールを飲むので

私が栓抜きで蓋を開ける

幼い頃に、やっと自分で開けられた時の

あの嬉しさを覚えていて

それから栓抜きを握るのは、いつも私の役目だ

父がビールを飲むときの

喉仏の動きを見るのが、とても好き

同級生の男子たちには、まだない

その大きくゴッツリとした喉仏は

女の子である私には一生手に入らない

特別な存在のように感じる

そんな事を思いながら

私はゆで卵の2個目を食べていた

父が私の目を見ながら

珍しく少し重い口調で話し始めた

その内容は、最近連続して起きている

失踪事件の話だった…

『最近、市内で急に人が消えてしまう』

恐怖心に満ちた人々の噂話は

急速に広がっていた

どの事件も同じように人が消え

身に付けていた衣類だけが

その場に残り、下側には決まって

赤色の砂と

金魚の死骸が

散らばっているという事件だ…

失踪した人々は

誰1人として見つからず

今もそのまま姿を消している

死んでしまったのか誘拐なのか…

謎が増えていくばかりの怪奇事件だった

『水季は隣に住んでいる陸くんと同じクラスだったね?』

父が神妙な面持ちで聞いてきた

私は、陸がいつも金魚を握り潰す事

決まって赤色の金魚だという事を

父も知っているのだと感じた…

刑事である父に、その噂が届いている事が

13才の私にとっては、とても重大に感じ

すぐに答えられなかった…

父は声を詰まらせる私を見て

それ以上は何も聞いてこなかった


父は私の心を

いつも1番に大切にしてくれる

母は私を出産後

しばらくして友人に誘われるがまま

宗教に入団し、導かれ

父が気付いた頃には

感情の起伏を自分で

抑えられなくなっていた

数ヶ月、県外の実家に帰省した母は

そのまま山中で遺体となって見つかったそうだ

私が2才になった頃だった

父は随分と自分を責めただろう

今もそうだ

母親の手料理を食べず

成長していく私を見て

必要以上に

私に対する感情を強く感じる…

父の奥底にある孤独は

13才の私にも

伝わってきて

心がきしむような気持ちになる

日頃、事件に追われ多忙な父に

母は自分の心を押し殺し

育児に悩んでいたのかもしれない…

父と私はお互いに

自分の存在が母を苦しめたのだと

心の内で思っている事を

知っている

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